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映画・演劇のレビュー

『グスコーブドリの伝記』

2012-07-19 19:52:32 | 映画
杉井ギサブロー監督は30年振りに再び宮沢賢治に挑む。しかも、前回と同じようにますむらひろしのキャラクターデザインで、前作の続編のようなスタイルを踏襲する。映画史に残る永遠の傑作『銀河鉄道の夜』を超える映画を作らなくてはきっと誰も納得しないはずだ。こんなリスクの大きいプロジェクトはない。でも、杉井ギサブロー監督は、軽やかにこの企画に乗っかって、プレッシャーも感じることなく、さらりと作った。(ように、見えるのだ。そこがまた、凄い)

猫のグスコーブドリが、運命と向き合うドラマは、思った通り、ただ淡々と描かれていく。受け入れるしかない現実に彼は抵抗を試みたりはしない。でも、あきらめるのでもない。ただ、みんなのため、自分のため、流されるように生きるだけだ。災害にも負けず、妹の死も受け入れ、何があろうと、ただ、でくの坊のように生きていく。

やがて、自分の命すら投げ出す所存で火山のなかに入っていくシーンで、いきなり終わる。献身的な行為ではない。いつもと同じことだ。彼にとってそれはただの日常でしかない。原作と違って、妹のネリは帰ってこない。まるで、カタルシスのない展開をする映画だ。でも、この静かな世界をただ受け入れて、過ごすブドリの姿を、ただ見ているだけの映画がこんなにも、胸に沁みてくるのは、そこには杉井監督の熱い想いが籠っているからだろう。冒頭の『雨にも負けず』は、あまりにストレートにテーマを提示していて、驚くが、あれは隠すものなんてないよ、この映画はそれだけだからね、というメッセージだったのだろう。ここには「何もない」からね、という決意表明だったのだ。だが、その「何もない」という事実が、こんなにも重い。



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