
もちろんこのタイトルは寺山修司の『書を捨てよ、町へ出よう』を踏まえたものだ。あの名著、そして寺山の劇場用長編映画デビュー作。70年代、寺山修司の映画と著作は僕にとってバイブルだった。さらには天井桟敷の芝居に憧れて、東京に行くことを夢見る高校生だった。懐かしい。あれから45年。あっというまに今に至る。僕が、まさかの老人の仲間入りである。
この著書の太田和彦さんは僕より一回りほど年上で、後期高齢者の仲間入りした。映画、本、芝居、町歩き。僕の毎日と変わらない。僕にはお酒はないけど、描かれるのはほぼ未来の自分。というか、今の自分。変わらないはずの近未来をそこに投影しながら楽しく読むことができた。書を捨てたりしないで、町ではなく、街に出ようと呼びかける。というか、誰かに、ではなく自分にね。楽しいエッセイだけでなく、理想の(でも、簡単に手に入る)毎日を描いた夢のようなエッセイ集。