先日見た『コンパートメントno.6』のユホ・クオスマネン監督のデビュー作、2016年のフィンランド映画である。第69回カンヌ国際映画祭のある視点部門である視点賞を受賞した作品。小さな映画だけど、丁寧に作られていて、なのにそっけない。モノクロで16ミリで撮られている。監督が細部までこだわった逸品。
1962年のお話。実話の映画化。フィンランドでボクシングの世界戦が行われる。オリ・マキはアメリカから来たチャンピオンに挑戦するチャンスを手にした。
田舎のパン屋の息子が世界タイトルマッチに挑むまでの日々が静かに描かれるのだが、周囲の熱狂とは裏腹で、本人も映画もなんだかのんびりしていて、そこには本来ならあるはずの緊張感はない。それどころか、彼は恋に落ちた。ある女性に運命的な出逢いをして、彼女にメロメロになっていく。なんてことだ。ボクシングより恋。ヘルシンキに彼女同伴でやってくる。周囲の人が注目した一代イベントなのに、彼は彼女に夢中。そんな映画ってありですか?
そして運命のクライマックス。彼はなんとか減量にも成功して、全国民が見守るタイトル戦に挑むのだが… その試合シーンのあまりのあっけなさ。笑ってしまうくらいに簡単に負ける。なのにラストのあのふたりの後ろ姿。あんなハッピーエンドってありなのか? ふたりは川縁を歩いていく、その幸福そうな姿に圧倒された。こんな映画があってもいい。