毎年1本ずつ新作を作り続けるイーストウッド。しかも、さまざまなジャンルに挑戦している。80代の後半を過ぎても衰えることなく旺盛なその意欲と気力と体力には恐れ入る。凄すぎる。静かな怒りを秘めたこの作品はこれだけの力作であるにもかかわらず、気負うことなくさらりと作り上げる。そこには悲壮感はない。これが最後の映画になるかもしれないという気負いはさらさらない。これからも毎年1作をずっと続けていきそうな勢いだ。役者としてはもうスクリーンの前に立たないだろうけど、作家としてなら100歳まででも大丈夫だ、と思わせるほど、しっかりした映画を作り続けている。(映画とはまるで、関係ない話だけど、こんな凄い人がこの世界にはいるのに、たった60歳で力尽きている今の僕はなんてダメな人間だろうか、と思うと自分がますます情けなくなる)
主人公のリチャードは正義感の固まりのような男で、ここまでいくといささか異常だ。だから、無実なのに犯人にされてしまう。この映画はFBIの不正を暴こうというのではない。彼らはリチャードを罪に陥れるためではなく、純粋に怪しい彼を正しい方法で(とは、言えないけど)裁こうとしているだけなのかもしれない。そんな気にすらさせられる。とても単純なお話なのに、単純ではないのはそこが原因なのだ。無実という事実は確固としてある。でも、彼の行動は常軌を逸している。正義と狂気は紙一重ということなのか。この映画の居心地の悪さは、ラストのハッピーエンドが決して爽快ではないところにある。