とても怪しい女がいる。そして、そんな彼女のことがとても気になる女がいる。彼女を尾行して、彼女の行動を観察して、できることなら、彼女とさりげなく言葉を交わして、友だちになりたいと思っている。それっていったいどういう心境なのか。わけがわからない。そんな異常者2人を読者である僕たちも見守っていくことになる。終盤で、ふたりはもしかしたら同一人物なのではないか、と一瞬不安になるが、(そういうオチはつまらないし、安易すぎる)そうではない。
彼女たちの暴走はどこかで歯止めが効く。だからラストでもう一度日常に戻る。だけど、その日常って何なんだろうか、と疑問を抱くことになる。むらさきの女の失踪で幕を閉じるのは少し拍子抜けがする。ふたりの逃避行がどこにたどりつくのか。それが見たかったのにはぐらかされた気分だ。
それにしても、あの「むらさきのスカートの女」は、何物だったのか。あんなに怪しかったのに、だんだんふつうの女になっていく。そして、尾行していた女は取り残されて、日常に埋もれていく。何もなかったかのように、むらさきのスカートの女は忘れられていき、日常は繰り返されていく。
なんとも救いようのないお話なのだが、こんな想いは誰もが抱えている。狂気と紙一重の日常がそこにはある。むらさきのスカートの女、という幻想を見ることで生きていける。