
こんなにも無口な映画は滅多にないだろう。少女は話ができないのか、と思うくらいに無口。祖父と少女、ふたりは祖母の遺体を入れた棺を持って旅する。祖父母の暮らしていた国境の町を目指して。あり得ないことだがヒッチハイクで行こうとする。
映画は何の説明もなく、淡々と進む。いや、話は進まない。ただひたすら旅を続けるだけでそこには話はない。棺を抱えてのヒッチハイクはあり得ない。だから仕方なく歩いていくけど、まさかの遠さ。いつまで経っても辿り着かない。その間、さまざまなドラマがある、というのが定番だけど、この映画にはない。ドラマもなく、ただひたすら旅を続けるばかり。あまりの単調さに眠くなる。やばい。
これはそんな映画なのだ。ふたりはほとんどしゃべらない。同行する善意の人の方が気を利かせてしゃべってくれるくらいだ。
終盤になって死体運搬を咎められて警察に捕まる。あれだけ長期間運ぶなら腐乱してくるのではないか、と心配する。結局途中の町で埋めることになる。そこからラストまでは一気だ。国境を越えて祖父が夢見る故郷の村まで行くのを少女は金網越しに見守るラストが胸に痛い。帰れるはずはないけど帰りたい。映画は失われた故郷を目指す祖父の見た幻の光景で幕を閉じる。
幻想的なシーンはあるけど、基本はリアリズムを貫く。現実に立ち向かうふたりの旅はひたすら哀しい。