これはかなり異常だ。こんな女性がいるだろうか。最初はふつうではいられない人もいる、という程度の認識で読み始めた。幼いころの奇行から始まり、大人になって、コンビニで働き始める。実に有能なコンビニ店員の誕生だ。しかし、18歳から始めて36歳になり、今もコンビニでアルバイトをして生きている、ということに対して、本人以外の人たちが実はかなり、奇妙で、気味が悪いと思い始めている。ということに、本人が気付く。
同じようにふつうじゃない男がバイトとしてこの店にやってきたところから、彼女の日常が狂い始める。それだけではない。彼女は彼を自分の部屋に住まわせる。世間の目を欺くための同棲ごっこが始まったところから、彼女の生活は壊れていく。
別にこんな女性がいてもいいではないか、と思う。それで、ちゃんと生きていけるのなら、周囲が彼女を奇異の目で見ようとも、彼女さえ、気にしなければいい。しかし、そうもいかないようだ。彼女は自分を守るために同棲したわけではない。ひっそりと誰の干渉も受けず、暮らせたならいい。それだけ。
ほんの少し、異常なところもある。でも、誰もの迷惑をかけているわけではない。そのまま、死ぬまで生きて行けたならいいのだけど、そんなことは不可能だ。36歳はかなり危険な年齢だったのかもしれない。
例えば、50歳一人暮らし、コンビニ店員。まだ、大丈夫か? 70歳はないだろう。漠然とした不安。この世界で定職にもつかず、女が一人で生きているのは、異常なのだろうか。(もちろん、男でも)彼女はちゃんとコンビニで働いている。有能な店員だ。でも、バイトであるという身分ゆえ、白い目で見られるのなら、正社員になれないのか? よくわからないけど、コンビニ店長で、女性とか、ないのかもしれない。(でも、なんで?)というか、彼女は正社員になろうとか、思わなかったのだろう。
ふつうの生活って、何なのか。社会に適応するって、どういうことなのか。この世界で居場所があるとか、ないとか、その基準はどこにあるのか。この短い小説を読みながら、不安に苛まれる。表面的にはふつうに生活できているように見えるけど、実際はそうではない。でも、普通って何なのか。わからなくなる。リアルと、象徴的なドラマのはざまで、この小説はこの現実のほんの少し先を提示する。それは、今ある世界ではない。僕たちを疎外する世界だ。そして、それもまた現実である。