渾身の力作『流』から1年。燃え尽きる想いで書きあげたあの完全燃焼の作品から、たった1年であれを遥かに超えるワールドワイドな作品を書きあげた。これは前作で全身全霊で自分のルーツを見届けたから出来る新境地だ。
舞台は近未来のアメリカ。22世紀の後半。世界が崩壊した後。だが、『マッドマックス』のようなアクションではない。これはちょっとした『地獄の黙示録』だ。神と呼ばれた男と、その消息を追って旅する男。(彼を殺すために)終末を迎えた世界に生き残り、死んでいく人類を見守る。
だが、これはSFではない。神話を記述するための旅は、神と呼ばれた男の生涯をたどり、彼にたどりつくまでのドラマだ。果たして人間である主人公の語り部が、神話に追いつくことが出来るのか。語られる男と語るための彼の消息を追う男。ふたつの視点から描かれる。視点は変わるけど、描かれる人物は同じ。語り部の視点から、と、本人の視点から、という構造が不思議な臨場感を与える。時間が前後して錯綜とするのもいい。
この神話がどうして生まれたか。現代の神の存在。彼がどうして生まれたか。人肉を食らうことの意味。生きていくためには何をしてもいいのか。そんなこんなのあらゆる要素を汲みこんで、壮大なドラマが描かれていく。一応エンタメ小説のスタイルにはなっているけど、タッチは純文学だ。こういう世界観の提示こそが東山さんの真骨頂なのだろう。ラストは少しあっけないけど、傑作であることには異論はない。