南出謙吾さんが先月の『カラベラの踊る日に』に続いて主演した新作。台本も彼自身によるもの。彼の書く世界はなんとも言い難い不思議な浮遊感がある。だいたい今回なんて、タイトルからして『天望タワー』である。高い場所から覗き見る世界。そのパノラマがこの芝居を形作る。世界を俯瞰したような芝居だ。ここに登場する8人の男女はその他大勢のこの都会で暮らすたくさんの人たちを象徴する。
主人公の直人(南出謙吾)が疲れた体を電車の座席に預ける。仕事帰りの車内で居眠りをするシーンから始まる。たったひとり通勤電車の中。がたんと揺れて目覚めたところで暗転。ラストはこのシーンと呼応するように直人の兄、利夫(田中悟)が電車の中で同じように居眠りをする。がたんと揺れて目を覚ます。
これは兄と弟の物語である。彼らを中心にして彼らを取り巻く優しくて弱い人たちの関係性が描かれていく。天望タワーのような高層マンションから下界を見下ろす。そこにはたくさんの人々の営みが見える。ここから見える世界の下で僕たちは生きている。夜の人気のない街並みを見ていると飽きることがない。十階から下を見ると人は豆粒みたいだ。なんだか滑稽に見える。そこでたくさんの人たちが泣いたり笑ったりして生きている。
都心から少し離れた小都市のリバーサイド。8人の男女が織りなすアラベスク。なんだか一昔前のトレンディドラマみたいなお話である。このちょっとした勘違いのような古臭さがいい。かつてのおしゃれなドラマを時期はずれの再放送で夕方にまとめて見てる気分だ。そこには忘れてしまった真実がある。主人公たちの一生懸命をちょっと距離感を置いて懐かしく見ている、そんな気分にもさせられる。
人のことをこんなにも素直に信じるなんてもう出来ない、と思う。だけれども、本当はそんなにも冷たい人間ではない。まだ、人を信じたいという気持ちはある。人と関わり合うことが怖い。それは人に対してたくさん裏切るようなことをしてきたからだ。この芝居が描くそんな気分がなんだか愛しい。
兄は20年も路上ライブをしているストリートミュージシャン、という名ばかりの無職、居候。そんな兄が自分のマンションに居ついたのを受け入れる弟。彼も、もう40歳になる。不動産会社で働く中間管理職。仕事の同僚たち。兄の恋人と、その姉。彼女の新しい恋人。
ここに出てくる男女はみんなどこかが不十分で、歪な生き方をしている。「何か」が足りないから、誰かにもたれかかっている。傷をなめあうようにして生きるなんて、今時恥ずかしい。そこまで人に心を開くことは出来ないのが、今という時代の気分だろう。そういう意味でもこのドラマは一昔前のお話に見える。人と人との関係が希薄になり、もうこういうドラマは暑苦しいからはやらない。
それなのに、この群像劇はおもしろい。ここに登場する男女の人間関係のあやうさがいい。なんでもない日常生活の中で、彼らの孤独がさらりと描かれる。8人のそれぞれの揺れる思いが絶妙に描かれるのだ。遠すぎることはなく、近くもない。けっこうプライベートに踏み込んでいるのに、きちんと距離はとれている。そこがいい。
話としてはサイドストーリーでしかないが、柏原愛さん演じる同僚と南出さんの関係を描く部分が実にいい。大人の切ない恋愛がさりげなく提示されているからだ。
主人公の直人(南出謙吾)が疲れた体を電車の座席に預ける。仕事帰りの車内で居眠りをするシーンから始まる。たったひとり通勤電車の中。がたんと揺れて目覚めたところで暗転。ラストはこのシーンと呼応するように直人の兄、利夫(田中悟)が電車の中で同じように居眠りをする。がたんと揺れて目を覚ます。
これは兄と弟の物語である。彼らを中心にして彼らを取り巻く優しくて弱い人たちの関係性が描かれていく。天望タワーのような高層マンションから下界を見下ろす。そこにはたくさんの人々の営みが見える。ここから見える世界の下で僕たちは生きている。夜の人気のない街並みを見ていると飽きることがない。十階から下を見ると人は豆粒みたいだ。なんだか滑稽に見える。そこでたくさんの人たちが泣いたり笑ったりして生きている。
都心から少し離れた小都市のリバーサイド。8人の男女が織りなすアラベスク。なんだか一昔前のトレンディドラマみたいなお話である。このちょっとした勘違いのような古臭さがいい。かつてのおしゃれなドラマを時期はずれの再放送で夕方にまとめて見てる気分だ。そこには忘れてしまった真実がある。主人公たちの一生懸命をちょっと距離感を置いて懐かしく見ている、そんな気分にもさせられる。
人のことをこんなにも素直に信じるなんてもう出来ない、と思う。だけれども、本当はそんなにも冷たい人間ではない。まだ、人を信じたいという気持ちはある。人と関わり合うことが怖い。それは人に対してたくさん裏切るようなことをしてきたからだ。この芝居が描くそんな気分がなんだか愛しい。
兄は20年も路上ライブをしているストリートミュージシャン、という名ばかりの無職、居候。そんな兄が自分のマンションに居ついたのを受け入れる弟。彼も、もう40歳になる。不動産会社で働く中間管理職。仕事の同僚たち。兄の恋人と、その姉。彼女の新しい恋人。
ここに出てくる男女はみんなどこかが不十分で、歪な生き方をしている。「何か」が足りないから、誰かにもたれかかっている。傷をなめあうようにして生きるなんて、今時恥ずかしい。そこまで人に心を開くことは出来ないのが、今という時代の気分だろう。そういう意味でもこのドラマは一昔前のお話に見える。人と人との関係が希薄になり、もうこういうドラマは暑苦しいからはやらない。
それなのに、この群像劇はおもしろい。ここに登場する男女の人間関係のあやうさがいい。なんでもない日常生活の中で、彼らの孤独がさらりと描かれる。8人のそれぞれの揺れる思いが絶妙に描かれるのだ。遠すぎることはなく、近くもない。けっこうプライベートに踏み込んでいるのに、きちんと距離はとれている。そこがいい。
話としてはサイドストーリーでしかないが、柏原愛さん演じる同僚と南出さんの関係を描く部分が実にいい。大人の切ない恋愛がさりげなく提示されているからだ。