1965年
8時30分の男とはリリーフの神様・宮田(巨人)のことだが、パ・リーグにも9時5分の男と異名を取るリリーフ投手がいる。東映の山本義司投手がそれだ。東映の試合が9時近くとなると山本がブルペンに姿をあらわし、9時5分ごろ水原監督が山本に登板を命じて、ゲームを締めくくるというわけ。「山本のカーブは、スピードを殺さず曲がる。コントロールが抜群だから、リリーフにはもってこいだ」山本は30年大阪商高から東映入り。サウスポーの条件をフルに生かし、もっぱらリリーフに使われていた。多田コーチは山本の存在を高く買う。「球威という点で、彼は一流とはいえないかも知れない。だが過去11年間に、ボークを一つも記録していないのは、彼の観察力と注意力がすぐれているのを証明する。特殊兵器として使えば、まだまだ働ける」山本が、宮田を意識しているのはもちろんだ。リリーフ投手として最も大切なのは何か、山本は闘志を燃やして言う。「まず相手を初めから食う度胸、つぎにカーブのコントロールを整えること。三つ目はいつでも登板してもいいようにブルペンから敵のバッターを観察すること、ぼくの体力では完投するのは無理、巨人の宮田のようにリリーフに徹して、東映の切り札と言われたいですね」南海には大きく水をあけられたが、東映後半戦の立役者として山本は活躍するだろう。