ドアの向こう

日々のメモ書き 

時雨駆けぬく

2009-12-05 | こころ模様
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     幾人かしぐれかけぬく瀬田の橋   丈草
   
  一句から 広重の浮世絵版画を思いますが
   写真は 11月の別所沼公園の橋です 
  しぐれは庭のベリーの葉を 色濃く染めていきました
  寒い一日 気持だけが忙しい
   みなさま お風邪に気をつけてくださいね 
                  (画像は二枚あります) 
   
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夜具やさん

2009-12-05 | こころ模様
      

  こどものころ 夜具屋さんがくるとウキウキしていた。

 白髪まじりのおじさんに一日中張りついて なりゆきを見守った。 
 それはお祭りにならんで楽しいことだった。 廊下に何十本もの綿の包みが並ぶとそわそわした。 巻いてある薄茶のハトロン紙、 触ると乾いた音がする。 それを、おじさんは気持ちよくベリベリとはがす。 綿は三つ折りがさらに輪にしてあった。 押したらふわふわ雲のよう、 小さな手形もゆっくり戻った。

  中表になったふとん皮、 畳のうえに伸された烏賊は、 あらかじめ祖母が縫っていたものだ。 朝はやくから座敷に陣取ったおじさんは、 新しい綿を幾枚か剥がしては、 おおざっぱな夜具の形にちぎって皮のうえへ置いておく。 繰り返して何枚も重ねられ、上へゆくほど小さくなって、 角は菱餅のような段々になる。 
  一番下のいちばん大きな綿で包みこむように、 上の綿は押さえながら外皮をくるりと返す。 綿は餡このように納まった。 ここが最大の見どころで。 やれやれ… おじさんは正確で間違えっこないのだけど うまくいくか 息を殺して眺めている。

 手品師のように鮮やかだったおじさんの職人技。 

 はみ出たところを切りとるしぐさ…  皺だらけの左手で押さえながら、右掌を層になった綿のいちばん下にもぐらせて、 煽るように上下させて裁断していた。 左手はまっすぐ定規の役目をするんだ。  見物人はほっとしながら、 気持ちは綿のなかに残したまま、 包まれて温もりも感触も忘れない。

 手順はすっかり覚え、 きっと 次は返すんだ… そしたら新しい綿を補充して と、 あたまで先回りしながら、ほんとうにその通りになっていくのをドキドキして見ている。  髪も、 鼻の穴も、 眉毛まで白くなったおじさんが  「おもしろいかい?」 と聴くから 「うん…」 とだけ答える。
 張り番の少女を邪魔者にしなかったおじさんは無口で、 たまに笑うと睫毛の綿埃もいっしょにゆらゆらと嗤った。 襖の向こうで銅壺のたぎる音がして祖父の咳払いも聞こえる。 いとこ達はどうしたんだろう。 こんな面白いことがはじまっているのに、何でこないの。
  いまでも、 膝の抜けたズボンや別珍の黒足袋を白くさせたおじさんが見える。 
  学校から帰ると飽きもしない熱心さで、 思えば愉悦とはこういうことを言うのだろう。  こころから楽しみ、蒲団がふっくらとつぎつぎ仕上がっていくのを、 ひそかに喜んでいた。

  掻巻のていれは、 姉さんかぶりをして祖母もよくやっていたが大家族でたいへんだった。 季節になると夜具屋のセイさんが呼ばれ、 物静かにあがってきては黙々と仕事をこなし、 夕方になると座敷を掃いてかたづけて、 また明日もやって来て。 住み込みをいれて20人近かったからかなりな数になる。

 あったかな掻巻はいつの間にか消えて、冬支度の思い出だけがなつかしく残った。

 

 

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