
たとえば 家族と、偶然道で行き逢ったとしましょうか。 でも知らんぷりして、大まじめに急ぎます。 チラとは見ますが 修験者の顔つきでやり過ごす。 家族はあわてて 「おや? どちらへ?」と声を掛けますが。 呼ばれたって返事もしない。 毎度のことゆえ 雑念を払いまして
『これから大事なお勤めがありますので…』 上目遣いにそう申し、ちょっと冷たくあしらいます。
自宅から会社まで、かれこれ30分、2・3の寄り道をしながら向かいます。
初めのお宅は、いつでも牛乳を用意して待っている。 そこで喉を潤して。 いえ、牛乳は此処と決めたわけではないのですが、 いつの間にかこのように…
次なる家で お肉などいただいて… 夕べのごちそうをわざわざ私奴のために取っておく …ワオォ~ン ありがたくて泣けてきます。
終いの家でチョコレートを少し… 身体に良くないと分かっていても いつも待っていて下さるので… 出勤前に必ず立ち寄りました。
三軒の方々は 私を通じてお顔見知り。よくわたしの噂をしてるようで…
そうこうしながら、ようやく勤務先のゴルフ場に着くのです。あそこの事務所は冷暖房で機嫌良く一日過ごし、管理人さんとも大の仲良し。 たまに留守居くらいはしていたのかも…
やがて… 夕焼け空にあはれをもよおし、とぼとぼ本宅へ帰ります。嫌だからじゃ有りません。これでも、気持ちのやりくり… 分かって下さいよぉ
夜休むのは本宅と決めています。 家族に充分愛されていて、もちろん食事もここが一番! かならず此処で済ませます。 何でしょうね、主人への義理、一家への忠信もありますし…
でも、朝になるとまたゴルフ場へ、足がしぜんと進むのです。どうしてか、自分でも分かりかねます。
ゴルフ場からは 「今日は来ないけれど どうかしましたか?」 「具合が悪そうだから お医者様に見せたほうがいい…」 「お腹を壊してるようだ… 今夜の食事は注意して」 「風邪ひいたらしい… 」などと、まめな電話連絡がきまって本宅に届きます。 医院に連れて行くのも、看病するのも本宅の努め。
お勤めは物心着いてからずっと、十何年? ほとんど皆勤賞でした。 亡くなったとき、ゴルフ場から花束を持ってお悔やみにこられ、日々ご挨拶を重ねたみなさまもお参り下さいました。 涙、なみだで…
さて、 わたしは誰かって? 親戚で飼っていた雑種犬ですよ、多くの方に愛されて幸せでございましたな~ 写真とは何の関係もありません。 拾われて主人のところに来ました。
(従姉妹から聞いたサラリーマン犬、この話は真実です)
急に「夏目ラグタイム」となられたのかと…?
そんな犬もあり?
元・とても優しい人間さまだったのかも・・・。
そんな旦那さまの正体が判ったら、どうするかな?
どうぞ私の目の前からは消えてくださいって言っちゃうかも知れない。あっちにもこっちにも義理を欠かず親切な心配りはなかなか出来ないことですね。
犬には思えないですよ~。
いや、犬だからできるのかな~?
深層心理の診断・判断に使えそうな物語ですね。
たまたま事務所で遭うと 眼を伏せて 遠慮がちに尾だけは振って。 「アラ! 見つかっちゃった」 ばつが悪そうなんですって。 ますます人間くさい。人のような犬!
ゴルフ場へお勤め(?)ですが、何故か昔式にソフト帽をかぶり、きちんとしたグレーの背広など着た勤勉な昭和のサラリーマンを思い浮かべました。
男の人のほうがやはり犬っぽいのかな。
うちにはねこがいますが、ああ、ねこは女だな、と思います。
ウフフと笑って最後にホロリ。
いい話ですね。こんな逸話を残してくれるなんて、犬は人間のよき伴走者であるなあ、と思わずにいられません。
ほんとうに 向田邦子さんの小説みたいです。 律儀に必ず三軒のお宅に寄ってから。
勤務かどうか… そこでも愛されて、居心地が良かったのでしょうね。自営なので留守にすることは余り無かったと思うのですが、何故毎日出かけたのか。よそで遭ったときの えも言われぬ態度とか、多分、複雑な心境を本犬に聴いてみたいものです。人よりも深い内面…