ブラスカル

元マラソンランナーですが、今や加齢と故障でお散歩専門、ブラタモリっぽく街歩きをしています。

「ポーツマスの旗」吉村昭

2013-01-05 00:36:55 | 読書
年末年始休みに読んだ本の中で、一番感動、感激した本がこれ。
題名の通り、日露戦争を終結させたポーツマス条約と、その全権大使、小村寿太郎を題材にした小説です。

日本は、陸軍は旅順要塞を陥落させ、奉天の会戦でも露軍を潰走させましたが、満州の地からロシアを追い返しただけで、ロシアの領土を寸土も切り取ったわけではない。
海軍も、ロシアの海軍力をほぼ壊滅させたものの、日本海の制海権を確保しただけで、ロシアの地に一発の大砲を撃ち込んだわけでもない。
一方で、既に年間の国家予算の8倍もの戦費を消費してしまった日本にこれ以上戦争を続行する余力はなく、この連戦連勝の状態で講和に持ち込むより他に手はない。
そんなギリギリの状況で、日本の全権大使、小村寿太郎は、会議の地である米国のポーツマスに赴き、敵国の全権大使、ウィッテとの決戦に臨む。
今更ながら、日露戦争ってのは、負けたら後がない、日本の独立自尊を賭けた戦争で、その結末は、陸海軍だけではない、政治家も、外務官僚も、日本人が一致団結して、ギリギリで勝ち取った薄氷の勝利だったということを実感しました。

米国のルーズヴェルト大統領の仲介で開催されたこの講和会議も、いつ決裂、戦争続行となってもおかしくない状況。
日本の戦争目的は、極東からロシアの脅威を完全に排除することを一義としていたわけですが、戦勝国としてふさわしい実質的な成果を勝ち取らなければ、今度は国内世論が黙っていない。
外交ってのは血を流さない戦争だなって。
いや、戦争が血を流す外交なのか。

事前の徹底した情報収集とか、周囲を味方に引き込むプレゼンテーション能力とか、相手の立場に立った交渉スキルとか、ビジネスの世界でも通用するような、真剣勝負の見本みたいなことの連続で、その点でも大変参考になりました。

ここまでではないにしても、今の外交も、ギリギリのことを、辛抱強くやっているのかな。
そういなのであれば、政治家や外務官僚の方々、大変ご苦労様です。

それにしても、ここまで頑張った政府に対し、騒擾事件で応えた大衆やマスコミは大変残念。
大衆ってのは、どうしてこうも近視眼的で感情的なんでしょうか。
そして、どうしてマスコミはそれを煽るのでしょうか。
この時も、大東亜戦争前夜も、そしておそらくは、今も。




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