1週間のんびり過ごしたカサーレスのキャンプサイトを去ってメリーダへ向かう。走行中に何組かのコウノトリのグループが飛んでいるのを見かけた。スペインも寒くなってきたから皆で集まって暖かいアフリカ辺りへ避寒に行くのかと思った。ところがこの夜のローカルニュースでは、コウノトリが帰ってきた、と人々が集まって写真やビデオを撮っているので、一体どこから帰ってきたのだろうと不思議でならない。
メリーダはローマ時代、イベリア半島(スペイン、ポルトガル)で一番栄えた町で、当時人口4万人と言われている。2千年後の現在人口5万4千人とあまり変わらない。4万人の人々が生活し人生を楽しんだことを想像すると、ローマ人は本当にすごい人達だったのだと心から尊敬してしまう。
カサーレスから1時間ほどでメリーダのキャンプサイトがある。午前中に着いたので、町までのバスの有無を聞くと日曜日はないと言う。キャンパーで町の中心地を目指すと途中に立派なアクアダクト(水道橋)が目に付いた。そのすぐ近くに駐車して、一番近い観光名所がこのとてつもないアリーナだった。この広大なアリーナは当時馬車のレースの行われたところで、映画ベンハーに馬車の競技があったが、それがこのようなアリーナだと説明されていた。
アリーナから歩いて約10分、旧市街の真ん中に円形劇場と半円形劇場が隣り合わせにある。入場料を払って入るが日曜日とてローカルのスペイン人が多かった。特に若い人たちが多く、若者もこんな遺跡に興味があるのかしらと思ったが、この半円形劇場では夏の間音楽祭や、オペラなどが上演されるという。
なんてラッキーな人たちだろう。先祖から受け継がれた最高の遺産で今でも楽しめるなんて。
この半円劇場の再建された柱やデコレーションなどは、トルコのエフェシスの遺跡を思い起こさせる。
ローマは狼に育てられた双子の兄弟が作り上げた伝説があり、狼が双子に授乳している像はローマとルーマニアで見たが、この町にもあった。この町もローマの末裔として誇りを持っているのだろう。
円形劇場のすぐ近く、この町では一番の見所と言われるローマン博物館は日曜日は無料だが2時に閉館、月曜日はヨーロッパのほとんどの博物館が閉まる。ここもその例外でない。あきらめてこの町を去ることにして、キャンパーで出発したが、道を間違え狭い道をあちこち走り回った挙句、町の反対側の川淵に出てしまった。そしてここのローマ橋にびっくり仰天。グアデアーナ川にかかるこの橋は全長783メータ、60からのアーチで成っているという。
今までローマ人の建設した立派な橋は何度と無く見ているが、こんな長い橋は見たことがない。普通で100メータもあったら長いほうだ。
このローマ橋の横に、アラブの城砦、アルカザーがあり、どうしても見たいと駐車場を探すが旧市街のほうはどこも満杯。とうとう川向こうへ行きローマ橋の近くに駐車できた。この橋を渡って早くしないと4時にアルカザーが閉まるかもしれないとあせりまくって、亭主はそっちのけ、7百メータを走ったがその長いこと。5時閉館と聞いてやっと落ち着き見て周ったが、まだ800年くらいしか経っていない城砦の中はほとんどが瓦礫のやま、川淵の城壁は強健そのものだった。
この石畳をアラブの人たちが闊歩したんだなーなどと思いながら歩き回った。
5時過ぎて次の町まで行くには遅すぎるので、今夜はメリーダのキャンプサイトで一泊しようと道を引き返した。
メリーダを出た朝は霧が深くて、見残したメリーダの町を見ようと計画していたのを変更して、真っ直ぐポルトガルへ向かうことにした。この道は7年前の12月ポルトガルからスペインへと通った道で、雨模様で寒かった。ポルトガルの国境まで深い霧は晴れなくて、入国とほとんど同時に空は真っ青、太陽が暑い。
国境から14Kmのエルヴァスの町は、この町の表看板と言うべき巨大な水道橋が、メインストリートの横に伸びていて決して見逃すことがない。7年前は雨の中駐車場が見つからず、この水道橋の写真を撮ってすぐスペインへ向かった。インターネットに拠ればこの7Kmの水道橋は15-17世紀に作られたものだと言う。
今日の素晴らしい天気に時間もたっぷり、そして水道橋のすぐ横に駐車することが出来、2時間ほどこの町を探索することにした。
7年前この町の歴史が知りたくてインターネットを調べたことがあったが、観光地でないここは町の名前さえ載っていなかった。今日水道橋から上手に歩くと堅固な城壁に囲まれた中世の町並みが現れた。
ポルトガルの町はスペインのそれよりも白さが際立って鮮やかだ。狭い一方通行の通りを車が走り、ところかまわず駐車している。広いオリーヴ畑の中に盛り上がった岡の上は、教会や、城砦が見える。
観光案内所の壁のポスター(上の写真)はこの町から数キロ離れた岡の上の城砦で星型は上空写真でなければわからないだろう。観光案内所に英語の説明書が無くてここがセント・ルジア城砦としか判らなかった。
町のスクエアはサンタ・マリア教会(旧エルヴァス大聖堂)の前でこの日は骨董市が開かれていた。どこかのお屋敷からもってきたのではないかと思われる素敵な家具があったけど、もちろん買えない。
このエルヴァスの旧市街は大きな変形ひし形の城壁で囲まれた岡の上の町で、その一角にあるエルヴァス城からの眺めは格別素晴らしい。周囲の岡はコルク樫の林とオリーヴ畑で、どこもかしこもからからに乾燥しているように見える。城自体は内部が崩れ落ちた13世紀のもので城砦とタワーが残っていてとっても安い料金で一周できた。
城砦を出た町外れの公園は鈴なりのオレンジの木に囲まれた中にベンチが点在していた。
今回がスペイン、ポルトガルの旅では3回目、ブルーの線は2004年10月から12月の旅でスペインは一般観光地をめぐったもの、赤の線は昨年11月から今年3月までで北スペインからポルトガルを主に周ったもので、今回は今まで行かなかったところを中心にしているが(黒線)、今いるところが昨年クリスマス、正月を過ごしたクォテイラのキャンプ場。
私たちも渡り鳥と同じで、以前に行ったキャンプ場へ行く。コウノトリは昨年作った巣に帰ってゆく。キャンパーを停めた辺りは、イギリスのキャンパーが多く、昨年おしゃべりしたイギリス人が何組もいて歓迎してくれた。クリスマスの間はキャンパーを置いたまま英国の家族のところへ帰る人たちも多い。
ヨーロッパ人のクリスマスに対する心構えは、日本人がお盆や正月に対する故郷へ帰って家族や親戚、友達に会うのに似ている。
キャンプサイトでもキャンパーやキャラバンの周りに色とりどりの電球や飾りを下げ、ポインセチアの鉢植えを並べているところもある。ヨーロッパ人にはクリスマスは25日だけでなく、12月1ヶ月がクリスマスなのだ。
クォテイラのキャンプ場には大きなユーカリの木が多く、その下を通るとさわやかな香りがする。12月がこの白い花の満開時期で、今が一番良い時期。
1月末から3月にかけてポルトガル、スペインはミモザの花が辺りを彩るが、このサイトのミモザはもう少しで開花しそうなくらいつぼみが膨らんでいる。
12月8日はポルトガルの祭日、この日は宗教祭日でカソリックのこの国では聖母マリアを祭る行進がおこなわれる。午後2時ごろ町へ出てみたがあまり人出はないし、車もほとんど走っていない。魚市場の近くの港へ行ってみると、青と白の旗で飾った漁船や、観光船が30艘ほど並んでいる。一艘の船の舳先に、花に囲まれたマリア像がすえつけられ、やたらと太った若い僧侶がバイブルを読み上げ、集まった人たちは神妙に聞いている。
3時過ぎてから船は数艘づつ港を離れ海岸に平行に走ってゆく。日本なら太鼓を叩いたり歌を歌ったりしてもっとお祭り気分が上がるだろうに、ここは何もない。堤防の突端ではお祭りに興味のない若者たちが魚釣りに夢中で、中サイズの鯖や,小鯛のようなのが釣れていた。
このお祭りはつまらないなと思いながら海岸線のプロムナードへ行ってみるとどんどん人々が集まってくる。
船は港とは一番遠い海岸に集まり何をしているのかが全然見えない。4時過ぎにプロムナードに集まった人たちがぞろぞろ港の方角へ移動している。船も港へ戻ってゆく。
プロムナードの人々の間にマリア像を担いでいる数人の男性がみえた。
海を渡ったマリア像は旧市街の教会へ帰ってゆくらしい。すごく期待してきたから、この簡単なお祭りにはすごくがっかりしてしまった。