殺人現場を目撃した。
それは偶然のことだった。
しかも犯人の顔をはっきりと見てしまった。
現場から離れて近くの商店街で電話を借りようと思った。
天ぷら屋さんに行って電話を借り、徳島警察に電話をした。
殺人事件を目撃したことを告げると、警察は詳しく状況を説明するように云った。
現場の状況を説明し、犯人は暴走族風の男だったと云ったが、
その途端に警察は電話を切ってしまった。
おいらは首を傾げたが、天ぷら屋のおばさんが忠告してくれた。
徳島では警察所長の次男が暴走族に入ってから、
暴走族の犯罪は取り締まらなくなったとのこと。
だから余計なことに首を突っ込まない方がいいよと云われた。
しかし殺人事件ではそうはいかないだろう。
だが、冷静になって考えてみると、
これはちょっとまずいことになったかもしれないと思った。
殺人現場にいたのは犯人と被害者とおいらだけだ。
そして徳島では暴走族の犯罪は取り締まらない。
しかし人が殺された以上は犯人が必要になる。
現場にいた暴走族風の男は犯人でないと確定したのなら、
消去法で犯人は一人だけと云うことになる。
これは徳島から早く出て行った方がいいと思った。
本当はあともう一泊徳島に泊まることになっていたが、
ホテルをキャンセルして今日中に帰ることにした。
だが、ホテルにキャンセルの電話をしてから大きな失敗をしたことに気付いた。
キャンセルしたことが警察に伝わったら、
徳島から脱出を計る意図がばれてしまう。
そこでANAに電話して徳島空港からの最終便の予約を入れた。
予約を入れればそこで氏名を名乗ることになる。
その間に陸路で徳島から脱出することにした。
徳島駅まで行って自動券売機で「うずしお」の切符を買った。
「うずしお」は徳島と松山を結ぶ特急だが、
一部の列車はそのまま瀬戸大橋を渡って岡山まで行く。
四国から脱出すればまず大丈夫だろう。
特急の自由席なら氏名を名乗る必要はない。
徳島駅に警察がいないか心配したが、特に変わりはなかった。
みんな徳島空港の方に行ったのだろう。
作戦は成功した。
N2000系の座席に潜り込み、そのまま深く座って顔を隠した。
列車は高松で折り返してそのまま瀬戸大橋を渡り、岡山を目指した。
しかし岡山駅の前まで来て唖然とした。
ホームには警察官で一杯なのだ。
機動隊やライフルを構えた狙撃部隊までいた。
焦ったおいらは特急の窓を開け、橋の上から瀬戸内海に飛び降りた。
※これは林檎乃麗が見た夢を文章化したもので、
実在の徳島県警の職務態度、徳島県警署長の家族、特急「うずしお」の運行区間、
JR四国N2000系の車体構造とは一切関係ありません。