タキさんの押しつけ劇評
『チンチン電車と女学生』
これは悪友の映画評論家・滝川浩一が身内に流している劇評ですが、もったいないので転載したものです。
映画ではありません。大阪の劇団・往来の舞台です。
ベースは戦時下の実話、男達が次々徴兵される中、広島電鉄の車掌(後に運転手)の役目を担うべく、一日の半分を女学校、残り半分を勤労に当てる目的で集められた少女達の物語。
今日が最終日だったので、しばらく再演は無いと思いますが、もし、今後“劇団往来/チンチン電車~”と見かけたら、絶対観劇にお出かけ下さい。おわかりの通り、反戦芝居ではありますが、一切の政治・イデオロギーを超えて、普遍的な、極自然な人間模様を描いた芝居です。
私、演出の鈴木氏が「若いキャストが戦時下の様子が解らず、今一、リアルにならない」なんぞとこぼすもんで、うちの店で飲みながらウーダラカーダラ喋っておりましたら「今のそれをみんなの前で喋ってくれ」との無茶振り。「アホか」と言いつつ、結局、ウダウダみんなの前で喋ったのが公演の一週間前、そんな縁で本日ようやく見てまいりました。
2幕 全19場、途中インターミッションを挟んで3時間弱の音楽芝居(ミュージカルとは違います)
感想一言で見事。私のウダウダ講演なんぞ全く必要なかったと、芝居を見ながら勝手に赤面していました。みんな、戦時下の若い男女として、厳然として舞台上に顕在し……こんなもん、公演一週間前にちょっと話を聞いたから出来るものではありません。
この芝居の初演は4年前、当時のメンバーが今回どの位残っているかは知りませんが、誠に見事な舞台でした。
私、今回が初見でしたから、講演するについて脚本を読ませてもらいました。 本読みの段階で、すでにウルウル来る程、良く出来た台本でしたが、舞台はさらに上を行きました。 予め本読みしていましたから耐えられましたが、これがなんの予備知識なしに見ていたら、冒頭一曲目の歌でボロボロに泣いていたはずです。事実、私の周りのお客さんは、その一曲目でハートを鷲掴みにされていました。
なんのストーリーも始まっていない、まさに冒頭の一曲目です。歌う彼女たちの内実が現れていなければあり得る反応ではありません。これはある種の奇跡であります。
講演させてもらった縁で打ち上げにも参加、キャスト以外の人達と話しましたが、皆さん同じ感想でした。芝居は“ナマモノ”ですから、一回一回出来は違います。公演最終回とあって、最高の舞台に立ち会ったのかもしれません。それはそれで、得難い経験をしたと思います。戦時下の若者たちの苦悩と、厳しいながらに抱く希望。国の情勢は日増しに落ち込んでいく日常、それでも懸命に前を向いて生きぬこうとする姿は問答無用に感動的です。
そんな日常、昭和20年8月6日 午前8時15分……セミの声がうるさい、良く晴れた広島の青空に、いきなり、もう一つの太陽が現れるのです。
人々のいかなる想いも営みも……一発の原爆で蒸発し、吹き飛んでしまう。
絵空事ではなく、その現実が舞台上に再現されていました。
私達日本人は、未だに先次大戦を総括していません。総括したからええっちゅうもんでもありませんが、例えばアメリカなんぞは勝った立場で実に都合の良い総括をしています。しかし、今の日本人のように思考停止しているのは論外です。物事を相対化するつもりはありませんが、“絶対的評価”なんぞ有る訳も無く、時代の要請、民族としての要請その他、時と立場で結論は違うでしょう。しかし、この事を考え続ける姿勢は持ち続けるべきだと思います。
偉そうにブッとりますが、私だって人様に言えた義理ではありません。そんな自分の無様を思い知らされる芝居でも有りました。 本作、中心は広島電鉄の作った女学校に通いながら働く少女たちの日常がメインではありますが、その家族、学校の先生たち、市井の人々、これら総てが世界を形作っています。今回、ヒロインの淡い恋心を向けられる兵士の役を演じる加藤義宗(加藤健一の息子さん)が、オーバーに叫ぶ事なく、かつ、全くブレない演技で好感。父ちゃんに似ず、顔が小さく、足の長い今時の若者。おおよそ戦時下の日本男児にはあるまじきスタイルながら、そんな事は全く感じない。それを言い出せば女の子たちもみんな今時の可愛い女性たちながら、戦時下の少女以外に見えない。
久方振りに「下手の横好き」の芝居心をくすぐられました。もし、可能なら、戦時下 物資横流しで儲けるオッサン(そんな役は登場しない)の役ででも参加したいものであります。 現実、そんな贅沢な時間の持ち合わせは有馬線が、その前に瞬殺で演出・鈴木氏に拒否されるでしょう。 キャスト70人(ワオ!!!)スタッフ合わせて100人以上の大所帯、スポンサーが付かなければなかなか再演は難しいでしょう。これまで大阪と広島だけでの公演ですが、心から日本中で見て欲しい作品です。どなたかスポンサーに心当たりがおありでしたら、紹介してあげて下さい。
『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』
7月発売予定。出版社の都合で、また発売が延びました。もうしわけありません。(税込み799円=本体740円+税)
『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』
青雲書房より発売中。大橋むつおの最新小説!
ラノベとして読んでアハハと笑い、ホロリと泣いて、気が付けば演劇部のマネジメントが身に付く! 著者、大橋むつおの高校演劇45年の経験からうまれた、分類不可能な新型高校演劇入門ノベル!
ネット通販ではアマゾンや楽天があります。青雲書房に直接ご注文頂ければ下記の定価でお求めいただけます。
青雲書房直接お申し込みは、下記のお電話かウェブでどうぞ。定価本体1200円+税=1296円。送料無料。
送金は着荷後、同封の〒振替え用紙をご利用ください。
大橋むつお戯曲集『わたし 今日から魔女!?』
高校演劇に適した少人数戯曲集です。神奈川など関東の高校で人気があります。
60分劇5編入り 定価1404円(本体1300円+税)送料無料。
お申込の際は住所・お名前・電話番号をお忘れなく。
青雲書房。 mail:seiun39@k5.dion.ne.jp ℡:03-6677-4351
『チンチン電車と女学生』
これは悪友の映画評論家・滝川浩一が身内に流している劇評ですが、もったいないので転載したものです。
映画ではありません。大阪の劇団・往来の舞台です。
ベースは戦時下の実話、男達が次々徴兵される中、広島電鉄の車掌(後に運転手)の役目を担うべく、一日の半分を女学校、残り半分を勤労に当てる目的で集められた少女達の物語。
今日が最終日だったので、しばらく再演は無いと思いますが、もし、今後“劇団往来/チンチン電車~”と見かけたら、絶対観劇にお出かけ下さい。おわかりの通り、反戦芝居ではありますが、一切の政治・イデオロギーを超えて、普遍的な、極自然な人間模様を描いた芝居です。
私、演出の鈴木氏が「若いキャストが戦時下の様子が解らず、今一、リアルにならない」なんぞとこぼすもんで、うちの店で飲みながらウーダラカーダラ喋っておりましたら「今のそれをみんなの前で喋ってくれ」との無茶振り。「アホか」と言いつつ、結局、ウダウダみんなの前で喋ったのが公演の一週間前、そんな縁で本日ようやく見てまいりました。
2幕 全19場、途中インターミッションを挟んで3時間弱の音楽芝居(ミュージカルとは違います)
感想一言で見事。私のウダウダ講演なんぞ全く必要なかったと、芝居を見ながら勝手に赤面していました。みんな、戦時下の若い男女として、厳然として舞台上に顕在し……こんなもん、公演一週間前にちょっと話を聞いたから出来るものではありません。
この芝居の初演は4年前、当時のメンバーが今回どの位残っているかは知りませんが、誠に見事な舞台でした。
私、今回が初見でしたから、講演するについて脚本を読ませてもらいました。 本読みの段階で、すでにウルウル来る程、良く出来た台本でしたが、舞台はさらに上を行きました。 予め本読みしていましたから耐えられましたが、これがなんの予備知識なしに見ていたら、冒頭一曲目の歌でボロボロに泣いていたはずです。事実、私の周りのお客さんは、その一曲目でハートを鷲掴みにされていました。
なんのストーリーも始まっていない、まさに冒頭の一曲目です。歌う彼女たちの内実が現れていなければあり得る反応ではありません。これはある種の奇跡であります。
講演させてもらった縁で打ち上げにも参加、キャスト以外の人達と話しましたが、皆さん同じ感想でした。芝居は“ナマモノ”ですから、一回一回出来は違います。公演最終回とあって、最高の舞台に立ち会ったのかもしれません。それはそれで、得難い経験をしたと思います。戦時下の若者たちの苦悩と、厳しいながらに抱く希望。国の情勢は日増しに落ち込んでいく日常、それでも懸命に前を向いて生きぬこうとする姿は問答無用に感動的です。
そんな日常、昭和20年8月6日 午前8時15分……セミの声がうるさい、良く晴れた広島の青空に、いきなり、もう一つの太陽が現れるのです。
人々のいかなる想いも営みも……一発の原爆で蒸発し、吹き飛んでしまう。
絵空事ではなく、その現実が舞台上に再現されていました。
私達日本人は、未だに先次大戦を総括していません。総括したからええっちゅうもんでもありませんが、例えばアメリカなんぞは勝った立場で実に都合の良い総括をしています。しかし、今の日本人のように思考停止しているのは論外です。物事を相対化するつもりはありませんが、“絶対的評価”なんぞ有る訳も無く、時代の要請、民族としての要請その他、時と立場で結論は違うでしょう。しかし、この事を考え続ける姿勢は持ち続けるべきだと思います。
偉そうにブッとりますが、私だって人様に言えた義理ではありません。そんな自分の無様を思い知らされる芝居でも有りました。 本作、中心は広島電鉄の作った女学校に通いながら働く少女たちの日常がメインではありますが、その家族、学校の先生たち、市井の人々、これら総てが世界を形作っています。今回、ヒロインの淡い恋心を向けられる兵士の役を演じる加藤義宗(加藤健一の息子さん)が、オーバーに叫ぶ事なく、かつ、全くブレない演技で好感。父ちゃんに似ず、顔が小さく、足の長い今時の若者。おおよそ戦時下の日本男児にはあるまじきスタイルながら、そんな事は全く感じない。それを言い出せば女の子たちもみんな今時の可愛い女性たちながら、戦時下の少女以外に見えない。
久方振りに「下手の横好き」の芝居心をくすぐられました。もし、可能なら、戦時下 物資横流しで儲けるオッサン(そんな役は登場しない)の役ででも参加したいものであります。 現実、そんな贅沢な時間の持ち合わせは有馬線が、その前に瞬殺で演出・鈴木氏に拒否されるでしょう。 キャスト70人(ワオ!!!)スタッフ合わせて100人以上の大所帯、スポンサーが付かなければなかなか再演は難しいでしょう。これまで大阪と広島だけでの公演ですが、心から日本中で見て欲しい作品です。どなたかスポンサーに心当たりがおありでしたら、紹介してあげて下さい。
『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』
7月発売予定。出版社の都合で、また発売が延びました。もうしわけありません。(税込み799円=本体740円+税)
『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』
青雲書房より発売中。大橋むつおの最新小説!
ラノベとして読んでアハハと笑い、ホロリと泣いて、気が付けば演劇部のマネジメントが身に付く! 著者、大橋むつおの高校演劇45年の経験からうまれた、分類不可能な新型高校演劇入門ノベル!
ネット通販ではアマゾンや楽天があります。青雲書房に直接ご注文頂ければ下記の定価でお求めいただけます。
青雲書房直接お申し込みは、下記のお電話かウェブでどうぞ。定価本体1200円+税=1296円。送料無料。
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大橋むつお戯曲集『わたし 今日から魔女!?』
高校演劇に適した少人数戯曲集です。神奈川など関東の高校で人気があります。
60分劇5編入り 定価1404円(本体1300円+税)送料無料。
お申込の際は住所・お名前・電話番号をお忘れなく。
青雲書房。 mail:seiun39@k5.dion.ne.jp ℡:03-6677-4351