大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ映画評『ノア~約束の舟』

2014-06-15 07:20:42 | 映画評
タキさんの押しつけ映画評
『ノア~約束の舟』



 これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に身内に流している映画評ですが、もったいないので転載したものです。


ようやく見られました、本作は製作段階から賛否両論、クランクアップ後、ヴァチカンに推薦を頼みにいって断られている。

 ただ、プレミア公開後は賛否の声が止み、静かになった。売り上げは低めのスマッシュヒット程度、製作費が不明なので採算が取れているのかはよく分からない。
 画像は良く出来ているとは思うが、どうも盛り上がりに欠ける。世界観が解りにくいのが一因だと思う。
 これは、アメリカ人も同じように感じたんじゃないだろうか。
 物語は、キリスト教信者でなくとも皆さんよ~くご存知のお話。アダムとイブの楽園追放後、大地に満ち溢れた人間達のあまりの罪深さに神は深くお怒りになり、人間を滅ぼしてしまおうとされた。神は“正しき人ノア”に方舟を造り、全ての動物をヒトツガイずつ守れ、地上を水で満たし方舟に乗るもの以外は総て滅ぼしてしまうと告げられる。さあ、ここで何故、人間以外の動物がヒトツガイだけなんだとはお聞き下さるな、一応答えは持ってますが、説明しだすと膨大になります(だって、魚は全部助かる訳ですし…)
 ノアが人々に笑われながらも指示された通りの大きさの方舟を造りあげると、ヒトツガイづつの動物達が集まって乗り込んだ。それと同時に天の水門が開き滝のような大雨が降り始め、地上は間もなく水に覆われ沈んでしまう。雨は40日降り続けてようやく止んだ。ノアは烏を放って大地の様子を探るが、烏は何の手がかりも持たず帰って来る。
 続いて鳩を放つと、鳩はオリーブの小枝をくわえて戻った。やがて水は引き、方舟はアララト山(アゼルバイジャンに本間にある山)山頂にたどり着いた。世界はそこから再生されて行った……と言うお話であります。

 この話は旧約聖書の創世記の始めの方に有ります。僅かなページであまり詳しい記述はありません。洪水神話は聖書以外にも在りまして、一番古いのはメソポタミアのギルガメッシュ神話です。旧約聖書の世界はメソポタミアと重なっており、“ノアの方舟”はこのギルガメッシュが下敷きだと言われています。 面白いのは、ニューギニア・南太平洋にも、殆ど同じ神話が有り、この神話では3羽目の鳥を放ったが、その鳥は帰って来なかった。確か、3羽目の鳥が新天地への案内人を連れて来る筈で、舟を造った老人は森の中に姿を隠し(死んだという意味)、今も鳥の帰りを待っている。このニューギニアの神話を、現地に伝道に入った伝道師が聞いてビックリしたそうであります。
 奥地に入ってくる軽飛行機から食料やら農耕道具やらが出て来るので「鳥が帰ってきた」と騒ぎになり、聞きただした所、この神話を聞かされたと言われています。この話は起源が解らないので、どの位前から語り継がれているのか不明です。

 閑話休題、映画に戻りまして、画面には全地球を台風のような雲が無数に覆っている画が映し出されています。これで、全球大雨になったというわけですね。
 旧約聖書の記述だけではプロットにもならない為、聖書以外の外典(聖書には採用されなかったが、正当とされる文書)や異端とされる文典(死海文書など)やキリスト教以外の文典にまで渉猟してストーリーを組み上げたようです。この辺りが、本作を否定的に見る人々の根拠でしょう。
 聖書には登場しませんが、ノアの祖父・メトセラやカインの末裔が王として出て来ます。この二人が極めて大きな意味を持っています。
 無宗教の人間が“信仰”を理解しにくいのは“神の意志”をいかに理解するのかっていう所につきます。 端的に言って“神の意志”は、無条件に従うものであって理解するものではありません。エデンの園で、蛇にそそのかされて“知恵の実”を食べなければ、人間は汚れを知らずに生きられたのですが、半端に知恵が付き、半端に神に近い存在になってしまったが故に苦難の人生を生きる存在になってしまった訳です。
 カインの末裔達は、この事に対して怨み骨髄(彼らにはもう一つ怨みが有りますが)「神の助けなどいらない」と叫ぶ。
 ただ、本作では神を否定しているのではなく、絶えず呼びかけているのに応えてくれない神に絶望している設定になっている。後半、このカインの末裔たる王が、イブに対する蛇のように、ノアの次男ハムに語りかける。実は、ノアは誰にも語らなかったが、ある重大な決意を秘めており(これも聖書には無い設定)、これを実行するか否か、王の囁きはこの点に関して重大な意味を持っています(あ~~~イライラする! ノアの秘密は重大伏線だから書けない! だから遠まわしにしか書けない。)
 本作では、神の意志は声として聞こえるのではなくビジョンとして見える事になっています。
 この指示にいかに従うか、ここにノアの人間としての懊悩が現れてきます。聖書にはノアの懊悩など出てきません。
 本作の弱い所は、この物語を相対的に分析しすぎたという所に尽きます。絶対的な神の物語を、人間の視線で再構築した、要するに滅ぶべき人間の言い分に幾らかなりとも正当性を持たせたという事です。
 ご存知ない方には誤解があると思いますが、この旧約聖書の世界は厳密にはキリスト教ではありません。この世界はユダヤ教世界であり、キリスト教は形としてはユダヤ教の一派です。ちなみにイスラム教もユダヤ教の分派です。だから旧約聖書に登場する預言者はイスラムにとっても預言者ですし、教典の中には創世記も出エジプト記も、その他の章も含まれています。
 本来は人間が発音出来ない名前なのですが、それをヤハウェと呼び、エホバと言い、アラーとも表す。これらは総て一つの“唯一神”“創造主(CREATER)”を現しています。
 本来、唯一神は厳しく非情なものです、しかし、厳しいも非情も人間から見ればの事であって、当の神様にしてみれば関係ない話。キリスト教も、この厳しさや非情さを受け継いではいますが、優しい愛の宗教とも呼ばれています。それは、キリストが人の罪を許す為、自ら十字架にかかった。その大きな愛が教えの中心にあるからです。
 映画は、この古いユダヤ教(もっと厳密に言えばプレ・ユダヤ教)の厳しく救いの無い(人間からすれば)話に“愛の救い”を織り込みたかったのかもしれません。
 だから、厳しい宗教映画にも出来ず、まさか単なるデザスターにもファンタジーにもするわけにいかず。人間ドラマを全面に押し出す訳にも行かなかった。面白おかしく作っているのではなく、大真面目に苦闘した跡は見てとれますが、あまりに多角的な視点から描こうとしたがため、せっかくの作品の中心が見えにくくなっています。キリスト教徒たる人々であろうとも世界観をつかみにくいだろうと思うのは、この事情からです。

 ノアの方舟は、あまり映像化されていません。大昔にあるのと、80年代「天地創造」の一部分、後はショートフィルムが有るくらいで、テレビドラマに一本(ジョン・ボイトがノア……やったと思います)ありましたね。あんまり覚えていないんですが、悪魔が小舟に乗って方舟をつけまわすエピソードがありました。
 それにつけても、毎回思うのは“方舟”があまりに立派に“船”の形をしてるんやなぁと言うことで、素直に聖書を読むと、縦・横・高さの寸法しか出てきません。竜骨をどうせいの、舵はどうだのの指示はありません、要するに馬鹿でかい、まさに“箱”を作れといわれているとしか思えない。 今作は、まさに四角い箱を作っています。これには唸りましたねぇ。しかも、実寸通りに、全長だけは3/2のセットを組んだそうです。その分リアルな画が撮れています。
 動物達は一部を除いてCGですが、そらそうですわな。動物っちゃ、膨大な数の彼らをいかに40日間養ったのかについても聖書には記述がありません。この解決策にも唸りました、なぁ~るほどね、そうきますか。
 ちょっとけなした評価にはなってしまいましたが、駄作ではありません。それぞれに感じる所も意味も違うとは思いますが、必ず誰にも見るべきシーンがあると思います。ハリー・ポッターのエマが、ノアの養女であり、長男セムの妻として方舟の中で子を産みます。ああ、あのハーマイオニーが……感慨ひとしおでありました。 それと、本作にはヤハウェもエホバも、もっと言うならGODという単語も出てきません。終始ノアは“CREATER”と呼んでいます。これに翻訳の戸田さんは「神」と言う訳を当ててはりました。“創造主の創造物”っちゅうセリフがわりと多いですから「神」とする方が収まりはええんですが……まぁ、やめときましょう。これをいいだすとまた長い話になります。
 お薦めか否か……スケールもスペクタクルもありますからお薦めいたします。いつもは、見ながら小理屈つけなはんなと言ってますが、本作の場合は逆で、映画の中の理屈をあまり気にしないで下さい…と、申し上げておきます。

 長々のご精読、感謝感激〓


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