タキさんの押しつけ映画&演劇評03
これは、友人の映画評論家ミスター・タキさんが、個人的に身内に流して、互いに楽しんでいる映画・演劇評ですが、あまりに面白くモッタイナイので、タキさんの許諾を得て転載したものです。
(1)「テルマエ・ロマエ」
結構楽しめましたよ。イタリア製の映画を吹き替えで見ている感覚です。
本作は原作を知らない方が楽しめます。漫画を読むなら、映画を見てからにしてください。映像は正直 チープなんですが、出演者が皆さん真剣にやってます……まぁ、下手くそで見ちゃおれん人もいらっしゃいますがね、そらまぁご愛嬌ってことで見逃してあげましょう。
上戸彩とその家族が原作とは違う扱いになっているのと、ケイオニウスがほんまに単なる女好きにされとりますが……許せる範囲です。 多少の事は、阿部寛のルシウスが余りに嵌っているので、それでええんじゃないかいなと思います。
平たい顔の一族としては古代ローマ人の驕りを笑って許してやるくらいの気持ちでゆったりと見てあげましょう。「平たい顔の一族」ってぇと、風呂に入っている爺さん達が素人エキストラかと思っていたのですが、よくよく見れば皆さんプロの役者さんです。程よく力の抜けた、ほんまに銭湯にきているおっちゃん達、この老優さん達にも拍手ですわい。
パンフレットも良く出来とります。古代ローマと日本の風呂事情の比較、歴史等 面白い読み物になっています。一読オススメであります。
(2) 劇団 新感線「シレンとラギ」 梅田芸術劇場
実は、前日に見た人から酷評を聞いていたので「ゲゲゲ」と思って見に行ったのですが……と言うのが、この所新感線には失望させられる事が多かったんですよね。まずクドカンの脚本だと、全く新感線の良さを引き出せない(今回は中島君の本です)。
新感線歌舞伎は、この2年程 方向性を変化させているのですが、未だ試行錯誤中で、演出も役者も乗り切れていない舞台を見せられたりもしたもんで、少々身構えてしまいました。
結論から言うと、私の感想としては「いいんじゃな~い」 って所です。同時に酷評した友人の言い分も100%理解できました。彼女曰わく「誰が悪いと言うんじゃなく、お話が嫌!感動せえへんかった」 との事、ハイハイよ~お解りますです。
タイトル「シレンとラギ」は主人公の名前です。芝居が始まって暫くは、いつ頃のどこが舞台なのか良く解りません。またぞろ「楼蘭族の殺し屋」なんてのが登場するんで、「中国?」とか思うのですが、「北の国、南の国、ゴダイ、モロナオ、ギセン」などの名前から、日本の南北朝……太平記が下敷きだなと見当が付きます。もう一つの伏線は、ソフォクレスの「オイディプス」で、これも第一幕の半分位の所で解ります。
これまではシェークスピアを下敷きに、オセロやリア王のストーリーを比較的丁寧になぞる芝居が多かったんですが、路線変更後はそれがギリシャ悲劇になっています。ギリシャ悲劇ってのは、陰惨な話が殆どなので、新感線の底抜けの明るさにそぐわないのですが、脚本家・中島、演出・井上の努力で飲み込みつつあるようです。後は役者達がどう肉体化するかにかかるんだと思うのですが……。
芝居は「ナマモノ」です。生きていて日々変化します。一日二公演だと、昼と夜で微妙にテイストが変わります。私が見た回は、酷評された前日の舞台とは変化していました(見ていずとも明確)。
本作は「オイディプス」が下敷きなので、どうしても陰惨な進行に成りますし、南北朝は後醍醐天皇の怨念の時代です。そりゃあ どうしたって暗く成ります。橋本じゅんと古田新太のコンビが笑わしてくれるのですが、まだ大爆笑には届かない。東京で練習して大阪に凱旋して来いってんです! 大阪の劇団やんけ!……と思うんやけどねぇ。ただ、ゲキ×シネは東京公演の記録になるので、どう変化しているか楽しみでもあります。もっと役者が軽く飛び回る所が見られる筈です。
さて、感動という点ですが、これはシレン(永作博美)の最後の台詞にかかっています。「蛮幽鬼」ラスト、稲森いずみの「この国を…」という台詞が、たった一言で観客の涙を絞ったように、シレンの一言が、どれだけ観客を痺れさせるかにかかっているのです。私の見た28日ソワレでは、それなりに感動的でしたが、感涙を絞るまでには至っていません。今暫く熟成に時間がいりそうです。こいつは客席とのやりとりの中から掴む以外にありません。
公演前の練習で90%以上は完成出来ますが、最後の仕上げは客席との一体化からしか出来ません。幸福な例だと、第一日目、幕開け以降 次々に積み重なってどんどん完成して行くのですが、これは極一部の誠に幸福な例です。 28日の観客は温かで、よく反応していました。これも本作を一歩進めたのだと思います。
新感線の芝居も高くなりまして、今回は13500円です。それだけ払って下手な芝居を見せられるんじゃたまったもんじゃありませんが、井上・中島コンビは、そろそろ掴みかけていると思えます。後、プロデュースゲストもいいのですが、劇団生え抜きのスターがみんなオッサン、オバハンになって、後継者がいないのも問題です。若手を育てる事にも神経を使っていかないといかんのやないでしょうかねぇ。
話は変わりますが、7月に三谷幸喜が「桜の園」を演出します。チェーホフは脚本の扉に「三幕の喜劇」と記していますが、「喜劇としての桜の園」なんて見た事は有馬線。今までは「喜劇」の表記に対する考察が、左翼的なものでしかなく、文字通りの「喜劇」とは捉えられませんでした。民芸の宇野重吉が「喜劇・桜の園」を作ろうとした事がありましたが、劇団員が真っ赤(?)だった為、途中で失速してしまいました。今度は「笑劇の巨匠」の演出です。さて、どんな芝居になるのでしょうか、楽しみです。
これは、友人の映画評論家ミスター・タキさんが、個人的に身内に流して、互いに楽しんでいる映画・演劇評ですが、あまりに面白くモッタイナイので、タキさんの許諾を得て転載したものです。
(1)「テルマエ・ロマエ」
結構楽しめましたよ。イタリア製の映画を吹き替えで見ている感覚です。
本作は原作を知らない方が楽しめます。漫画を読むなら、映画を見てからにしてください。映像は正直 チープなんですが、出演者が皆さん真剣にやってます……まぁ、下手くそで見ちゃおれん人もいらっしゃいますがね、そらまぁご愛嬌ってことで見逃してあげましょう。
上戸彩とその家族が原作とは違う扱いになっているのと、ケイオニウスがほんまに単なる女好きにされとりますが……許せる範囲です。 多少の事は、阿部寛のルシウスが余りに嵌っているので、それでええんじゃないかいなと思います。
平たい顔の一族としては古代ローマ人の驕りを笑って許してやるくらいの気持ちでゆったりと見てあげましょう。「平たい顔の一族」ってぇと、風呂に入っている爺さん達が素人エキストラかと思っていたのですが、よくよく見れば皆さんプロの役者さんです。程よく力の抜けた、ほんまに銭湯にきているおっちゃん達、この老優さん達にも拍手ですわい。
パンフレットも良く出来とります。古代ローマと日本の風呂事情の比較、歴史等 面白い読み物になっています。一読オススメであります。
(2) 劇団 新感線「シレンとラギ」 梅田芸術劇場
実は、前日に見た人から酷評を聞いていたので「ゲゲゲ」と思って見に行ったのですが……と言うのが、この所新感線には失望させられる事が多かったんですよね。まずクドカンの脚本だと、全く新感線の良さを引き出せない(今回は中島君の本です)。
新感線歌舞伎は、この2年程 方向性を変化させているのですが、未だ試行錯誤中で、演出も役者も乗り切れていない舞台を見せられたりもしたもんで、少々身構えてしまいました。
結論から言うと、私の感想としては「いいんじゃな~い」 って所です。同時に酷評した友人の言い分も100%理解できました。彼女曰わく「誰が悪いと言うんじゃなく、お話が嫌!感動せえへんかった」 との事、ハイハイよ~お解りますです。
タイトル「シレンとラギ」は主人公の名前です。芝居が始まって暫くは、いつ頃のどこが舞台なのか良く解りません。またぞろ「楼蘭族の殺し屋」なんてのが登場するんで、「中国?」とか思うのですが、「北の国、南の国、ゴダイ、モロナオ、ギセン」などの名前から、日本の南北朝……太平記が下敷きだなと見当が付きます。もう一つの伏線は、ソフォクレスの「オイディプス」で、これも第一幕の半分位の所で解ります。
これまではシェークスピアを下敷きに、オセロやリア王のストーリーを比較的丁寧になぞる芝居が多かったんですが、路線変更後はそれがギリシャ悲劇になっています。ギリシャ悲劇ってのは、陰惨な話が殆どなので、新感線の底抜けの明るさにそぐわないのですが、脚本家・中島、演出・井上の努力で飲み込みつつあるようです。後は役者達がどう肉体化するかにかかるんだと思うのですが……。
芝居は「ナマモノ」です。生きていて日々変化します。一日二公演だと、昼と夜で微妙にテイストが変わります。私が見た回は、酷評された前日の舞台とは変化していました(見ていずとも明確)。
本作は「オイディプス」が下敷きなので、どうしても陰惨な進行に成りますし、南北朝は後醍醐天皇の怨念の時代です。そりゃあ どうしたって暗く成ります。橋本じゅんと古田新太のコンビが笑わしてくれるのですが、まだ大爆笑には届かない。東京で練習して大阪に凱旋して来いってんです! 大阪の劇団やんけ!……と思うんやけどねぇ。ただ、ゲキ×シネは東京公演の記録になるので、どう変化しているか楽しみでもあります。もっと役者が軽く飛び回る所が見られる筈です。
さて、感動という点ですが、これはシレン(永作博美)の最後の台詞にかかっています。「蛮幽鬼」ラスト、稲森いずみの「この国を…」という台詞が、たった一言で観客の涙を絞ったように、シレンの一言が、どれだけ観客を痺れさせるかにかかっているのです。私の見た28日ソワレでは、それなりに感動的でしたが、感涙を絞るまでには至っていません。今暫く熟成に時間がいりそうです。こいつは客席とのやりとりの中から掴む以外にありません。
公演前の練習で90%以上は完成出来ますが、最後の仕上げは客席との一体化からしか出来ません。幸福な例だと、第一日目、幕開け以降 次々に積み重なってどんどん完成して行くのですが、これは極一部の誠に幸福な例です。 28日の観客は温かで、よく反応していました。これも本作を一歩進めたのだと思います。
新感線の芝居も高くなりまして、今回は13500円です。それだけ払って下手な芝居を見せられるんじゃたまったもんじゃありませんが、井上・中島コンビは、そろそろ掴みかけていると思えます。後、プロデュースゲストもいいのですが、劇団生え抜きのスターがみんなオッサン、オバハンになって、後継者がいないのも問題です。若手を育てる事にも神経を使っていかないといかんのやないでしょうかねぇ。
話は変わりますが、7月に三谷幸喜が「桜の園」を演出します。チェーホフは脚本の扉に「三幕の喜劇」と記していますが、「喜劇としての桜の園」なんて見た事は有馬線。今までは「喜劇」の表記に対する考察が、左翼的なものでしかなく、文字通りの「喜劇」とは捉えられませんでした。民芸の宇野重吉が「喜劇・桜の園」を作ろうとした事がありましたが、劇団員が真っ赤(?)だった為、途中で失速してしまいました。今度は「笑劇の巨匠」の演出です。さて、どんな芝居になるのでしょうか、楽しみです。