タキさんの押しつけ映画評18
レガシー/ハンガーゲーム
この春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ
これは、悪友の映画評論家、滝川浩一が個人的に、仲間内に流している映画評ですが、もったいないので本人の了解を得て転載したものです。
『レガシー』
先行ボーンシリーズ3作品と同一シリーズ第4作です。
ジェイソン・ボーンシリーズを見ている事が最低必要条件、映画の作りはそれを大前提にしている。
冒頭シーンがアイデンティティの冒頭とシンクロしており、主人公は代わるが同じシリーズなのだと明確にしている。アイデンティティでは嵐の海だったが、今作はアラスカの凍りついた川、主人公アーロン・クロスを演じるジェレミー・レナーが本当に潜っている。嘘もごまかしも無い、さすがに「切れてる役者ジェレミー」 このシーンだけで後に続く2時間が平凡なアクション映画である訳がないと知れる。
ただ、この後の アーロンが何故 追われる事に成るのかを説明しているくだりが前シリーズを見ていないと少々辛い。
言葉を替えると、この部分さえ乗り切れば 後は存分に楽しめる作りにはなっている。 さすがにアクション映画の作りに革命をもたらしたシリーズのリ・スタート、その真価は見ていて唸るばかり。格闘は言うに及ばず、各所に出てくる「フリーラン」…これも前半に登場する アーロンがマルタ(レイチェル・ワイズ)の家に侵入する場面、なんら手掛かりの無い壁を まるで見えないハシゴが有るかのごとくに駆け上がる。白眉は後半 マニラの貧民街の屋根の上での逃走、殆どスタントマンを使わずジェレミーが演じている。
当然カーチェイスシーンも登場、マックイーンの「ブリット」 ハックマンの「フレンチ・コネクション」ハリツキーの「バニシング60」等々 映画界に金字塔と成っているチェイスシーンに新たな1シーンが加わった。
今回はオートバイ、しかも後ろに女性を乗せての逃走劇、特にアクロバティックなシーン以外はジェレミーが運転しており、なんとレイチェルが後ろに乗っている(ようまぁ保険会社が了解したもんだ、まさか内緒で撮影した訳じゃないだろね) 当然、撮影トリックを駆使しているのだが本物の緊迫感に包まれている。
実はジェレミー・レナーを見ていると誰か往年のスターを感じるのだが、今作を見てそれがはっきりした、彼はスティーブ・マックイーンを想起させるのだ。そう確信した途端、涙が溢れそうに成ってしまった、後のシーンを見ていて ずっとレナーの顔にマックイーンの顔が重なって見えてしようが無かった位である。
さて、本作のキャスティングの妙は 相手役にレイチェル・ワイズを起用してある事。本作のリアリズムの半分は彼女がしっかり支えている。前作からのキャラクターもしっかり生きているし、二人を追う司令官リック(エドワード・ノートン) も秀逸、これは単なるシリーズ続編なんて物ではない。 原作はラドラムの「暗殺者」なのだが、主人公がジェイソン・ボーンと名乗る記憶喪失の暗殺工作員であるという設定以外まるっきり別物(原作は実在の暗殺者カルロスとの死闘が柱に成っている)だから、元々自由に作られている。それが本作をもってさらに新しい局面を切り開いたと言える。アメリカでもつい最近封切りに成った所なので続編の情報は聞こえてこないが、ラストは続きを意識している。
そうそう、忘れとりました 今回二人を執拗に追う工作員♯3 ルイス・小沢・チャンチェン、この人 日系なのやら中国系なのやら よう判らんのですが フリー・ランの名手で、最近ちょくちょく見かけます。この人の追跡の仕方も大迫力、この人の名前がクレジットにあれば その映画は要チェックでありますゾ。
『ハンガーゲーム』
これは、はハイティーン向けのジュビナイルの映画化、日本じゃラノベとか言うんですかね。アメリカでは原作が社会現象と言えるほどのヒットで、映画もそのあおりで今年一発目のメガヒットをかっ飛ばしている。 日本では、なぜか原作発売時に宣伝されず浸透していない。原作はジュビナイルだとはいえ世界観も人物設定もがっちり組まれており、大人の読者をも取り込む力を持っている。さて、通常は原作を先に読まない方がええよってのが通り相場なんですが、本作は絶対読んでから見た方がようござんす。というのがこの映画、完全に読者に向けた作りに成っているからで、細かい心理描写は「皆さんすでにご存知でしょう」になっている。
映画としてはルール違反だが、言うなればアメリカでそれだけ売れている原作の映画化だって事です。
こんな作り方が出来るのは「ハリー・ポッター」以来です。映画はそれなりに良く出来てはいますが原作未読だと消化不良になりそうです。主人公の弓が得意なカットニス、演じるのはジェニファー・ローレンス、「ウィンターズ・ボーン」…というよりゃ「Xメン1stジェネレーション」のミスティークと言った方が通りがよいか? 彼女が無茶苦茶嵌り役、もうこの人以外に考えられない。本作に色々と不満を持つ人もおありでしょうが、そんな人もジェニファーの存在には納得出来るはず。
ただ、原作はカットニスの一人称で語られ、彼女の心が右に左に揺れるのを詳しく描いている。映画ではそれが伝わってこない。「皆さんすでにご存知でしょう」って作り方になっているってのは主にこの部分で、アメリカ国内向けにはそれで良いかもしれないが、輸出するにはあまりにも配慮に欠けているのではないか。とは言えそこそこ楽しめる作りには成っているので、原作を読んでおけばかなりカバーできる。
文庫二冊ですが、所詮ジュビナイル、活字中毒者なら半日もあれば余裕のヨッチャンで読破出来る。さほど「絶対見に行け~」って訳ではないがオススメ作ではある…かな? 原作第二部も発売されているが、これが何たることか、第一部からすると信じられん程出来が悪く、ほんまにガキ向け小説に堕している……しかも、ストーリーの重要設定に矛盾まである、まぁ これは翻訳ミスの可能性もあるし、第三部(11月発売)を読まんとわかりませんが……結末はもう殆ど読めとります。
本シリーズは第二作でどう繋ぐかが肝になりそうです。それによってはシリーズ三作で大化けする可能性もあると思われるんですが…現状、レンタルディスクでええんでない?としかいえませんねぇ。
レガシー/ハンガーゲーム
この春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ
これは、悪友の映画評論家、滝川浩一が個人的に、仲間内に流している映画評ですが、もったいないので本人の了解を得て転載したものです。
『レガシー』
先行ボーンシリーズ3作品と同一シリーズ第4作です。
ジェイソン・ボーンシリーズを見ている事が最低必要条件、映画の作りはそれを大前提にしている。
冒頭シーンがアイデンティティの冒頭とシンクロしており、主人公は代わるが同じシリーズなのだと明確にしている。アイデンティティでは嵐の海だったが、今作はアラスカの凍りついた川、主人公アーロン・クロスを演じるジェレミー・レナーが本当に潜っている。嘘もごまかしも無い、さすがに「切れてる役者ジェレミー」 このシーンだけで後に続く2時間が平凡なアクション映画である訳がないと知れる。
ただ、この後の アーロンが何故 追われる事に成るのかを説明しているくだりが前シリーズを見ていないと少々辛い。
言葉を替えると、この部分さえ乗り切れば 後は存分に楽しめる作りにはなっている。 さすがにアクション映画の作りに革命をもたらしたシリーズのリ・スタート、その真価は見ていて唸るばかり。格闘は言うに及ばず、各所に出てくる「フリーラン」…これも前半に登場する アーロンがマルタ(レイチェル・ワイズ)の家に侵入する場面、なんら手掛かりの無い壁を まるで見えないハシゴが有るかのごとくに駆け上がる。白眉は後半 マニラの貧民街の屋根の上での逃走、殆どスタントマンを使わずジェレミーが演じている。
当然カーチェイスシーンも登場、マックイーンの「ブリット」 ハックマンの「フレンチ・コネクション」ハリツキーの「バニシング60」等々 映画界に金字塔と成っているチェイスシーンに新たな1シーンが加わった。
今回はオートバイ、しかも後ろに女性を乗せての逃走劇、特にアクロバティックなシーン以外はジェレミーが運転しており、なんとレイチェルが後ろに乗っている(ようまぁ保険会社が了解したもんだ、まさか内緒で撮影した訳じゃないだろね) 当然、撮影トリックを駆使しているのだが本物の緊迫感に包まれている。
実はジェレミー・レナーを見ていると誰か往年のスターを感じるのだが、今作を見てそれがはっきりした、彼はスティーブ・マックイーンを想起させるのだ。そう確信した途端、涙が溢れそうに成ってしまった、後のシーンを見ていて ずっとレナーの顔にマックイーンの顔が重なって見えてしようが無かった位である。
さて、本作のキャスティングの妙は 相手役にレイチェル・ワイズを起用してある事。本作のリアリズムの半分は彼女がしっかり支えている。前作からのキャラクターもしっかり生きているし、二人を追う司令官リック(エドワード・ノートン) も秀逸、これは単なるシリーズ続編なんて物ではない。 原作はラドラムの「暗殺者」なのだが、主人公がジェイソン・ボーンと名乗る記憶喪失の暗殺工作員であるという設定以外まるっきり別物(原作は実在の暗殺者カルロスとの死闘が柱に成っている)だから、元々自由に作られている。それが本作をもってさらに新しい局面を切り開いたと言える。アメリカでもつい最近封切りに成った所なので続編の情報は聞こえてこないが、ラストは続きを意識している。
そうそう、忘れとりました 今回二人を執拗に追う工作員♯3 ルイス・小沢・チャンチェン、この人 日系なのやら中国系なのやら よう判らんのですが フリー・ランの名手で、最近ちょくちょく見かけます。この人の追跡の仕方も大迫力、この人の名前がクレジットにあれば その映画は要チェックでありますゾ。
『ハンガーゲーム』
これは、はハイティーン向けのジュビナイルの映画化、日本じゃラノベとか言うんですかね。アメリカでは原作が社会現象と言えるほどのヒットで、映画もそのあおりで今年一発目のメガヒットをかっ飛ばしている。 日本では、なぜか原作発売時に宣伝されず浸透していない。原作はジュビナイルだとはいえ世界観も人物設定もがっちり組まれており、大人の読者をも取り込む力を持っている。さて、通常は原作を先に読まない方がええよってのが通り相場なんですが、本作は絶対読んでから見た方がようござんす。というのがこの映画、完全に読者に向けた作りに成っているからで、細かい心理描写は「皆さんすでにご存知でしょう」になっている。
映画としてはルール違反だが、言うなればアメリカでそれだけ売れている原作の映画化だって事です。
こんな作り方が出来るのは「ハリー・ポッター」以来です。映画はそれなりに良く出来てはいますが原作未読だと消化不良になりそうです。主人公の弓が得意なカットニス、演じるのはジェニファー・ローレンス、「ウィンターズ・ボーン」…というよりゃ「Xメン1stジェネレーション」のミスティークと言った方が通りがよいか? 彼女が無茶苦茶嵌り役、もうこの人以外に考えられない。本作に色々と不満を持つ人もおありでしょうが、そんな人もジェニファーの存在には納得出来るはず。
ただ、原作はカットニスの一人称で語られ、彼女の心が右に左に揺れるのを詳しく描いている。映画ではそれが伝わってこない。「皆さんすでにご存知でしょう」って作り方になっているってのは主にこの部分で、アメリカ国内向けにはそれで良いかもしれないが、輸出するにはあまりにも配慮に欠けているのではないか。とは言えそこそこ楽しめる作りには成っているので、原作を読んでおけばかなりカバーできる。
文庫二冊ですが、所詮ジュビナイル、活字中毒者なら半日もあれば余裕のヨッチャンで読破出来る。さほど「絶対見に行け~」って訳ではないがオススメ作ではある…かな? 原作第二部も発売されているが、これが何たることか、第一部からすると信じられん程出来が悪く、ほんまにガキ向け小説に堕している……しかも、ストーリーの重要設定に矛盾まである、まぁ これは翻訳ミスの可能性もあるし、第三部(11月発売)を読まんとわかりませんが……結末はもう殆ど読めとります。
本シリーズは第二作でどう繋ぐかが肝になりそうです。それによってはシリーズ三作で大化けする可能性もあると思われるんですが…現状、レンタルディスクでええんでない?としかいえませんねぇ。