希望ヶ丘青春高校有頂天演劇部の鉄火場➄
与話情浮名横棒(よはなさけうきなのよこぼう)
タイトルにルビを振るのは情けないが、読めなきゃ元も子もない。
去年某地区予選で、いささか奇態な審査が行われたことは旧聞になりかけだが、釈然としない。
しかし、このことは別の部員が触れているので、もう書かない。
鬼は来年の事を言うと笑うらしいが、済んだことを言うとどんな顔をするんだろう?
もう七十年も前の戦争のことを言いつのる国がある。天に唾するはなんとかと言うが、いずれおのが身に返ってくるのは世の習い……と、そこまで大きな話をするつもりはない。
一昨年の巳地区の審査も奇態ではあった。
世上に広まる噂では、審査に不審を持った出場校が「なぜ自分たちは、優秀賞と言う名の選外であったのか」を聞きただすために、審査員を呼んだということになっているが、実態は真逆のよう……と言ったら少しは鬼程度のリアクションはしてもらえるだろうか。
実際は、呼びもしないのに、審査員が進んで弁明に向かったらしい。
よほど自信のない審査をやったか、審査後の反応に困惑したかのいずれか、または、その両方であろう。
おれは、いささか高校演劇の昔や裏の話には詳しいつもりだが、今さら言っても詮無いことが多いので、撫でる程度にしておこう。
この学校の部員たちは、事の異常さに気づいた。
でも相手は名こそ惜しけれの天下のプロ演劇人。粗略にも扱えず「お説ごもっとも」の微笑を絶やさなかったが、この某審査員が帰ったあとは「なんだと、コノヤロー! どの口が言ってやがんだ!」と容赦がない。
俗に言う「憤懣やるかたなし」の心情である。
忍ぶれど色に出にけりナントヤラ。回りまわっておれごとき者の耳にも入ってくる。
生徒は、当然顧問には報告するし、愚痴にもなる。これはいかんと、大人が二人質問状を審査員に送った。
「子どもを間諜にして異を唱えるはなにごとか!」と曲解、この二人に原稿用紙にして四十枚の〇〇書を送ってきた。仄聞ではあるけれど、あまりに大人げない所業にただ嘆息。
弱い犬ほどよく吠えると、締めくくっておく。
近頃演劇部のブログがちょっとしたブームだ。中には息切れし消えてなくなったものも多いが、コトリ高校は健闘中である。部長の三好は仲良しこよしお人よし、あまり触れるところが無かったが。おれは言う。
大本営発表みたいなことしか書かないなら止めておけ!
太宰治の名言に、こんなのがある。
「明るさは滅びのしるしであろうか、人も家も暗いうちは滅びはせぬ」
そんな明るさを彼らのブログから読み取ってしまうのは眇めであろうか。
今年の連盟の講習会は東京や大阪の高校演劇同様七百人を超える盛況であったそうな。おれは、こう答えておこう。
春はライオンのようにやってきて羊のように去っていく。竜頭蛇尾。鶏頭狗肉。
いかん、またつまらないことを書いてしまった。書いたことは書きなおしてはいけないのが仁義。そのままとする。
今日の昼休みは、ちょっといいことをやった。
うちの学校にとても人柄のいい、そう若くもない先生がいる。この先生が、ある女の先生が好きなんだが、コクるなんてことはもちろん、本人の前では息もできないというくらいに惚れてしまい、先日はひどい過呼吸に陥り救急車を呼ぶ仕儀とあいなった。
岡惚れで死なれちゃ後生が悪いので、今日は教官室で二人羽織。
おれが、机の下で先生の声色。先生は大汗かいて口パク。とんだシラノ・ド・ベルジュラック。
で、なんとかお付き合いまではこぎつけた。次回もよろしくと言われてるけど、あとは自分の甲斐性。
グッドラックではあった。
根津甚八