大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記・002『いっそ、昔の宮の森に通う?』

2023-01-15 09:19:44 | 小説

(めぐり) 型落ち魔法少女の通学日記

002『いっそ、昔の宮の森に通う?』   

 

 

 空は晴れても心は闇だぁ……

 

 古いお芝居の台詞だったかが浮かんでくる。

 桜はまだまだだけど、ゾロゾロと流れにのって出てきた講堂の外、植え込みの梅は嫌味なくらいに紅白の花をつけてるし、空は益々晴れてるし。

 グシャ

 下足を入れていたレジ袋が風にあおられて飛んできて、不可抗力で踏んでしまう。

「失礼します」

 場内係りの女生徒さんが、そのレジ袋を拾ってくれる。他にも二三人の女生徒さん、憧れの旧制服姿で甲斐甲斐しく合格者と保護者の案内やら下足袋の回収やら。後ろのドアからは男子の旧制服たちが入って行って後始末にかかっている。

 あら?

 見かけと好奇心だけはわたし以上に若いお祖母ちゃんが人だかりに気付く。

 合格者と保護者が「へえ」とか「ほー」とか言ってる。物見高いお祖母ちゃんの後に着いていくと、トルソーに着せた二着の新制服。脇には業者のオバサン二人が付き添ってニコニコ。

「合格おめでとうございます。本日より採寸とお申込みを承っております」

「本日と、次の合格者登校日に承ります、直接店舗の方にお越しいただいてもけっこうですよ」

 集まっている半分以上は女子と保護者。

 さっそく採寸してもらったり、注文したりしてる。

「どうする?」

「帰る」

「そうね、次でも間に合うしね」

「…………」

 

 電車を降りて家まで歩く。

 

「待ち時間考えたら自転車もありね」

 電車は二駅、二駅分合わせても二キロも無い。自転車どころか歩いて通ってもいい距離だよ。

「この遠回りが無きゃねえ……」

「うん……」

 表通りと家の前の通りの間には寿川がある。橋の位置が悪いので、グルッと百メートルほど遠回りしないと表通りには出られない。制服の事が無ければ、半分は散歩気分で、この道で通学できたと思う。

 小学校も中学校も、反対側を三分ほどのところだったから、この道のりは楽しみでもあったんだよ。

 

 それが、もう疎ましい。

 

「どうしても、イヤ?」

 お茶を淹れながらお祖母ちゃん。

 家に帰ったから、本来の年相応の姿に戻って、わたしの前に座る。

「でも、仕方ないよね、よく確かめなかったわたしも悪いし……」

「イヤなら無理しなくてもいいのよ」

「だって、今から受け直せる高校なんて無いし……」

 ズズズ……

 めっちゃ年寄りみたいな音をさせてお茶をすするお祖母ちゃん。

 この五月で古希、それで猫舌なんだから仕方ないんだけど、癇に障る。

 コトリ

 分かっちゃったのか、飲みかけの湯呑を置いた。

「ごめん、そんなつもりじゃ……」

「じゃあ、いっそ、昔の宮の森に通う?」

「え?」

「引退したけど、お祖母ちゃん魔法少女だったからね、それくらいの魔法は使えるし」

「え、えと……どうやって?」

 お祖母ちゃんは、現役の頃から型落ちの魔法少女で、ドジばかりしていた。だから、第一線の戦闘部隊からは外されて、内勤の事務仕事とか新米魔法少女の相談係りとかばかりやっていた。いきなり言われても、ブタさんが「なんなら空飛んでみせようか?」って言うくらい戸惑ってしまう。

「うちは時司(ときつかさ)って苗字でしょ」

「うん」

「大昔は、朝廷の陰陽師の家系でね、時間の管理とかしていたんだよ」

「初めて聞いた」

「そうだっけ?」

「えと……昔の宮之森に通うって?」

「亜世界の宮の森」

「あせかい?」

「うん、異世界の手前。まあ、パラレルワールド的なかな? 派手な魔法とかは使えないんだけどね、忘れ物取りに行ったり、調べものしたりをね。異世界と違って、ほとんどこの世界と同じだから、昔の人に教わってくるようなこともしてたからね」

「でも、高校って三年間だよ。三年間昔に行きっぱなしになるじゃん」

「ううん、通いでいいんだよ。朝に、昔の学校に行って、夕方には今の時代に戻って来る。まあ、通いのタイムトラベル的な……かな?」

 なんかあやふや~。

「ほら、お祖父ちゃん落語が好きだったでしょ。特に八代目の三遊亭円馬」

「うん」

 ひとりヘッドホンで落語聞いて笑ってたお祖父ちゃんを思い出す。

「古典落語の名人だったけど、あれは、昔に戻って六代目に稽古つけてもらっていたんだよ」

「そうなの!?」

「うん、真打になったのも昔の亜世界でだったし。その渡りを世話したのは、曽ばあちゃんだったりしてね」

「そうなの……」

 

 ちょっと、そんな気になってきた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女

 

 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・85『体験入隊の日がやってきた』

2023-01-15 05:57:37 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

85『体験入隊の日がやってきた』 

 

 


 そうこうしているうちに体験入隊の日がやってきた。

 埼玉と東京にまたがるA駐屯地だったので、どこかの駅前に集合かと思ったら、三日前に峰岸先輩からメールが来た。

―― 当日は、午前八時半、学校裏門前集合。服装は学校指定のジャージ。携帯品は自由だけど、駐屯地に入ったら使えないから少なめがいいよ ――

 で、当日。

 こういうことにはダンドリのいいわたしは六時に起きて茶の間に降りた。

 で、びっくりした。おじいちゃんとおばあちゃんがテレビの天気予報を見ながら待っていた。

「なに、そのカッコウ?」

「国民服だい!」

 胸を張ったおじいちゃんの横に、セーラー服にモンペ姿。二人とも頭にキリリと日の丸の鉢巻き。

「あ、それ、わたしの中学のときの制服!」

「やっぱ、出征のお見送りは、これでなくっちゃ!」

 想像してみて、九十ん歳のオバアチャンのセーラー服……!

 わたしは、十五分ほどで朝のいろいろやって(女の子の朝なんて、いろいろとしか言えません)かっ飛びで、家を出……ようとした。

 おばあちゃんが、どこにそんな力があんのよって感じでジャージの裾をつかんだ。

「ちゃんと、お作法ってのがあるんだよ」

「あ、わたし未成年だから(^_^;)」

 おじいちゃんが出した盃をイラナイしたら怒られた。

「ばか、こりゃ水杯(みずさかずき)だ。作法だよ作法……ばか、そんな、事のついでみたいにやるんじゃねえ。気をつけだ、気をつけ!」

 気をつけして、行こうとしたら、また裾をつかまえられた。

「挨拶だよ、挨拶」

「行ってき……」

 まで言うと。おじいちゃんが叫んだ。

「仲まどか君の出征……もとい。体験入隊と!」

「武運長久を祈って!」

 と、おばあちゃんが受けた……そのころには、家族や近所の人たちが目をこすりながら出てきちゃった!

「ばんざーい!」

 おじいちゃんの雄たけびを合図に、わたしは横丁まで世界新ぐらいのスピードで走った。

 もちろんハズイからよ。恥ずかしいの(≧Д≦)!!


 で、早く着きすぎた。


 裏門には、まだだれもいない……と、思ったら、門柱の陰に気配。

「あ、乃木坂さん……どうしたの、その格好?」

「体験入隊、僕も付いていこうと思って」

 乃木坂さんは。ズボンのスネのとこをタイトなレッグウォーマー(ゲートルって言うらしい)みたいなのでキリリと締め上げ、制服の上からは左右二個の物入れみたいなのが付いたベルト。背中には四角いリュックみたいなのをしていた。

「これはね、軍事教練の時の格好さ。あのころは嫌で仕方がなかったけど、君たちが体験入隊をするって言うんで、付いていってみようと思ってさ……捧げ筒!」

 プっと吹き出しかけた、で、あのことを聞いてみた。稽古場じゃ、里沙と夏鈴がいるので聞きそびれていたのだ。

「潤香先輩の夢の中に出てきたのって、乃木坂さんよね?」

「……うん。意識が戻って、いきなりこの三ヶ月間の変化を知ったら、また頭の線切れそうだから。予備知識をね」

「潤香先輩、関根さんとか言ってたけど」

「紀香さんの大切な人……それ以上は言えない。言えば、君は顔に出てしまうからね」

「マリ先生も同じこと言ってた……」

「世の中には、そういうこともあるんだ。大人になるためのピリオドだと理解してくれたら嬉しい」

 寂しそうに、でも温もりのある顔で乃木坂さんが言った。


 そこへ忠クンが白い息を吐きながらやってきた。こちらは規定通りのジャージ姿。


「なんだ、まどかも早く来ちゃったのか」

「違うわよ、不可抗力なのよ……」

 朝のイキサツを話した。二人とも大笑い(むろん乃木坂さんのは、わたしにしか聞こえない)そうこうしているうちに、里沙と夏鈴がやってきた。里沙のリュックはコンパクトだけど、夏鈴のは冬山登山に行くくらいの大きさだった。

「なに、夏鈴、その冬山登山みたいなのは?」

「だって、お母さんがあれも持ってけ、これも持ってけって……」

「こりゃ、過保護か嫌がらせかのどっちかだわね」

 夏鈴が異議を唱えようとすると乃木坂を一台のトラックが登ってきた。今時めずらしいボンネットトラック。その濃緑色の車体は、素人のわたしが見ても自衛隊のトラックだった!


「八〇二五(ハチマルフタゴオ)到着」


 そう言って、「自衛隊」のおじさんが「女性自衛官」を従えて降りてきた……で、幌着きの荷台からは、峰岸先輩と……マリ先生が降りてきた(°д°)!?

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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