鳴かぬなら 信長転生記
突然の茶姫の亡命に扶桑は大慌てだった!
そういう印象が扶桑国内にも、三国志の国々にも広まった。
双ヶ岡に軍勢を並べたのも、扶桑が大慌てしたための非常呼集だと思われた。その上で、扶桑の緊急動員の凄さも三国志に見せつけてもいる。
念の入ったことに、茶姫の歓迎会も、ドタバタと二転三転して、未だに行われていない。
大々的な歓迎晩さん会であっても、一見質素な茶席のそれであっても、段取りよくやってしまえば―― 扶桑はかねてから茶姫の亡命を計っていた ――ということになって、いたずらに三国志を刺激してしまう。さすがだよね。
「そんな風にお見通しというのは可愛くないかもよ~(^_^;)」
あっちゃんが頭を掻く。
「あんたが、鎧を選ぶのに手間をとらせたのも、そういうことだったんでしょ!」
「いやいや、いくら神さまといっても、ファッションのことは本人次第だからさぁ。わたしとしては、選択肢を並べてあげるしかできないわけでぇ……あ、いっけな~い、もう寝る時間だわ」
「え?」
たしかに時計は十時を回っている。
「さっき晩御飯食べたとこなのに」
「楽しいお喋りだったから、時間のたつのも忘れてたのよ。じゃね~」
そう言うと、あっちゃんは一筋の光になって自分の祠に戻って行った。
「ああ、いいお湯だったぁ」
後ろで声がしたかと思うと、茶姫が髪を拭きながらリビングに入ってきた。
「そうだ、茶姫、お風呂に入ってたんだ!」
「え、ああ、一緒に入るつもりなら待ってたのに」
「いえいえ、ちょっと、ボンヤリしてて忘れてた」
どうも、あっちゃんに化かされていたみたい。
「忘れてくれるぐらいがいい、居候としては気楽でいいぞ……ん、誰かいたのか?」
さすがは茶姫、ソファーの微妙な窪みで人が居たのを読み取ってしまう。
読まれたからには正直に言う。ついこないだまでは、魏の女将軍と近衛の士官という間柄だったんだからね。
「ああ……うん。本人が居るところで紹介しようと思ってたんだけどね、熱田大神って神さまがいたの」
「え、狼の神さま!?」
「いや、大いなる神さまと書いて大神。いちおう兄貴の守り神なんだけどね」
「あ、それでは、一度挨拶しておかねばならないだろう。ちょうど風呂にも入ったところだ、正装してくるぞ」
「いやいや、うちでは『あっちゃん』て呼んでるくらい軽い……いや、気さくな神さまだから、またでいいわよ」
「そうかぁ、シイがそう言うなら言葉に甘えておくが」
「それよりも、ほんとうに生徒の扱いでいいの? 茶姫なら先生どころか、校長だって務まりそうなのに」
「ここは扶桑だ。学ぶことの方が多い。こちらこそ、学院と学園の両属にしてもらって嬉しい限りなんだ。気にしないでくれ」
「そっか、じゃあ、うちの制服は出来てるから、着てみる?」
「ああ、喜んで!」
「学院の制服も仕上がってるぞ」
「あ、帰ってたんだ」
「茶姫の制服が出来たというので、街まで取りに行っていた」
「いや、すまんなニイも」
「気にすることはない、俺も早く見てみたかったからな。起きていてくれてよかった」
「それでは、着替えてくるぞ!」
「「うん!」」
その夜は遅くまで茶姫のファッションショーになった。
大人びた茶姫に制服は幼すぎるのではと、ちょっとだけ心配したけど、いやはや、このわたしよりもよく似合っている。
いつの間にか、ガラス戸の向こうからあっちゃんも覗いていたけど、知らないふりをしておいた。
☆彡 主な登場人物
- 織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生 ニイ(三国志での偽名)
- 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
- 織田 市 信長の妹 シイ(三国志での偽名)
- 平手 美姫 信長のクラス担任
- 武田 信玄 同級生
- 上杉 謙信 同級生
- 古田 織部 茶華道部の眼鏡っ子 越後屋(三国志での偽名)
- 宮本 武蔵 孤高の剣聖
- 二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
- リュドミラ 旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ 劉度(三国志での偽名)
- 今川 義元 学院生徒会長
- 坂本 乙女 学園生徒会長
- 曹茶姫 魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
- 諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
- 大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん
- 孫権 呉王孫策の弟 大橋の義弟