大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・379『犬が西向きゃ尾は東・1』

2023-01-08 15:48:20 | ノベル

・379

『犬が西向きゃ尾は東・1』さくら    

 

 

 ええと……東京からの帰りです。

 

「ごめん、この土日で東京に来てほしい!」

 前生徒会長の百武真鈴先輩に拝み倒されて……拝み倒した本人は、うちの横でアイマスクして寝てます。

 こんなご時世やさかい、新幹線の車内はみんなマスクしてんねんけど、その上にアイマスクしてるさかい、ちょっと怪しい。

 高校生声優として人気うなぎのぼりの真鈴先輩は顔がさす。

 駅やら電車の中では高い確率で正体がバレてしもて、サインとか写真とか頼まれるんで目隠しのためらしいねんけど、ほんまに寝てるしぃ。

 真鈴先輩は原子力で動いてるんちゃうかというくらいに活発な人やねんけど、その秘訣は、この――どこでも寝られる――いう技があるからやないかと思う。

 

「みなさん、リアルさくらでーす!」

 

 先輩自ら両手のキラキラエフェクトやって紹介されたのは、江戸川アニメの会議室。

「は、初めまして、酒井さくらです!」

 元気なだけで、普通の挨拶すると。

 オオオ!

 教室の半分くらいの会議室にどよめきの声があがる。

 正直、ビビる(;'∀')。

「こちらが、監督の宗武真(むねたけまこと)さん」

「宗武です、東京までお呼びたてしてごめんなさいね。僕の我がままなんです、この日しか空かなくってねぇ(^_^;)」

「感謝してくださいよ、監督。高校生って言ったて、急に東京来るのは大変なんですからね」

「はい、しろと言われたら、たとえ足の裏でもお尻でも舐めさせていただきます!」

「アハハ、さっそくのセクハラありがとうございます……で、向かいが作監の江原さん……」

「サッカン?」

「作画監督、アニメの絵のグレードを管理してる偉い人」

「江原です。ご本人に来ていただいて本当に助かります」

「それから……」

 続けて、第一原画さんやらのアニメーターの人たち、プロデューサーやら制作進行やら演出やらナンチャラやら、十数人の人らが紹介されて、紹介されてる間にも五六人の人が入ってきて、トドメにうちでも知ってる女の人が入ってきた。

「すみません、遅れました」

 真面目な大人びた声でビックリしたんやけど、姿形と声質は、まごうかた無きベテラン声優の花園あやめさん!

 シリアスからコメディー、可憐から極悪まで、声と縁起の幅では五本の指に入ろうかという売れっ子さんです。

 真鈴先輩も売れっ子やねんけど、学校でしょっちゅう顔合わせてるし、校内のイベントやらではお馴染みやから、そんなに意識はせえへんねんけど、あやめさんのリアルは格別ですわ。なんか、背中に電気走った!

 

 事情は、こうです。

 

 江戸川アニメが元請けになって作られてる新作春アニメ『犬が西向きゃ尾は東』の制作が遅れてる。

 ほら、年末に、うちら東近江市のお寺で除夜の鐘撞いてたでしょ(376回『四回目の大晦日』)。その時に頼子さんのスマホに真鈴先輩から電話がかかってきて、なんか揉めてた。あれですわ。

 アニメ制作のことは、よう分かれへんねんけど、四月のオンエアまでに間に合うか間に合わへんかの瀬戸際らしい。

『犬が西向きゃ尾は東』というのは、東京のJKと大阪のJKの物語。二人ははとこ同士。はとこいうのは祖父母のころに兄弟やったいう関係で、めっちゃ小さいころに曽ばあちゃんの葬式で会って以来で、日ごろは親類付き合いも無い。

 それが、別々の事情で大阪と東京に入れ違って引っ越して苦労するというコメディー。

 東京のJKは真鈴先輩、大阪のJKは花園あやめさんが声を当てることになった。

 ところが、五回目までの絵コンテが出来て、制作発表までしたとこで、監督と作監が頭を抱えた。

 大阪のJKのキャラの細部が決まれへん。

 いちおう中肉中背のポニテ、素顔ではキツメやけど、笑うと愛嬌があるという線で進んでんねんけど行き詰ってしもたんやそうです。

 年末には「よし、この線でいくぞ!」と監督は書き上がったばかりの絵コンテを自慢げに振り回してたんやけど、新年を迎えて再び挫折。

 なんや、ヒントは文化祭の動画。ほら『サクラウメ大戦』の芝居やったり、駅前までパレードやった、あれですわ。

 あれに写ってる酒井さくらが参考になったという、嬉しい話やねんけど……うちなんかを参考にするから行き詰るんやと思う……。

「いちど、リアルさくらに合わせてくれ!」

 と監督は叫んだ!

「やっぱり、映像資料からだけでは掴めん! 頼む! 百武真鈴!」

 ほんで、真鈴先輩に頼んだ。

 

 せやさかい、東京に一泊しての帰りの新幹線いうわけですわ。

 

 素人のうちが見ても――だいじょうぶ?――いう感じ(^_^;)。

 この話は、とうぶん続きそうな気配です。ナマンダブ ナマンダブ……

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
  •   

 

 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・78『旧制中学の制服』

2023-01-08 07:25:47 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

78『旧制中学の制服』 

 

 

 スカートを繕って同窓会館の方に戻りかけると、理事長先生といっしょになった。

「さっきは、焼き芋の差し入れありがとうございました」

「なんのなんの、ちと多すぎやしなかったかね」

「いえ、先輩方も応援に来てくれたんで、ちょうどよかったと思います」

「そうか、そりゃよかった」

 そこへ、みんなが、ゾロゾロ同窓会館から出てきた。

「整理完了したから、お祝いの買い出しに……あ、理事長先生。先ほどはありがとうございました」


 一礼すると、里沙を先頭に、みんなで駅前のコンビニを目指して行った。


「ほう……綺麗になったね。いや、同窓生を代表して礼を言うよ」

「いいえ、とんでも。こちらこそ……」

 理事長先生は、懐かしそうに部屋を一周すると、ピアノに向かい、静かに撫でてから弾き始めた。

「……先生、この曲なんていうんですか!?」

「『埴生の宿』だよ……知っているのかい?」

「はい……ここで聞きました」

「……そうか、君にも聞こえたのか」

「人影も見えました……一瞬、シャンデリアが一瞬点いたときに、ほんの一瞬……」

「……旧制中学の制服を着ていなかったかい?」

「それっぽかった……かな。きっとバルコニーのガラス戸に映った自分の影を……」

「僕も、一瞬だけ見たことがある……このピアノに寄っかかってるところを刹那の間」

「先生……」

「そのときも、かすかに『埴生の宿』が聞こえた。そうか……君にも見えたんだね」

「その人って……」

「悪いやつじゃないと思うよ。時々物音をたてたり、椅子の場所が変わっていたり。ごくたまにこの曲を聞かせてくれたり……それは、こないだ話したね……そうか、君にも見えたんだ」

 理事長先生は、また、ゆっくりと慈しむように『埴生の宿』を弾き始めました。


 それから、たった三人の稽古が始まった。


 ほんとは、少し期待があった、先輩の誰かが見に来てくれないかって。

 だって、演出も舞監も、わたしたち役者が兼務。出番の少ないノブちゃん役の夏鈴が、稽古ごとに立ち位置や、演技のきっかけをメモってくれる。それを基に三人で、ああでもない、こうでもない。

 動画を撮ってやってみたけど、巻き戻して観るだけで稽古時間が無くなってしまう。帰りの電車の中で見ても、自分の未熟な演技って落ち込むだけだしね。

「ね、SNSに上げてコメントとかもらったら?」

「そ、そんな恥ずかしいことができるか!」

 夏鈴の提案は、一言の元に里沙が切り捨てた。さすがのわたしも、公演前の芝居を流すのはアウトだと思うよ(^_^;)。

 やっぱ、演出がいないとね……やってらんねえ! なんてヤケッパチのグチなどは言いませんでした……思っていてもね。

 それにね、役者以外誰もいない、道具も何にも無しの稽古場……これも地味に落ち込む。


 わたしだけ、もう一人分の気配を感じていたけど、それは言わなかった。


 理事長先生には言ったけど、漠然としていて、二人に言うどころか、自分で思い出すのもはばかられた……だって、怖いんだもん!!

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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