大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・385『ちょっと寂しい日曜の夜』

2023-01-30 15:21:03 | ノベル

・385

『ちょっと寂しい日曜の夜』さくら   

 

 

 お風呂入りに部屋を出たばっかりの留美ちゃんが戻ってきた。

 

 またパンツ間違えた?

 同じ部屋で寝起きしてるうちらやけど、衣類は別々に仕舞ってる。

 制服とかは同じ真理愛学院のやし、別々の収納。

 それ以外は、一つのタンスを引き出しに『さくら』『留美』と書いて共用。

 入れる引き出しが別々やから、出し入れで間違うことはあれへん。

 せやけどね、取り込んだ洗濯物を分ける時に、時どき間違う。

 下着なんかには『S』と『R』とのイニシャル入れたあるねんけど、時どき間違う(^_^;)。

 うちは間違うてもかめへんねんけど、じっさい二度ほど間違うて「アハハ、留美ちゃんの穿いてたあ( ´艸`)」で済むねんけど、留美ちゃんは気にする。詩(ことは)ちゃんに言うと「留美ちゃんの方が普通だよ」とか「いつまでも小学生の感覚でいちゃダメだよ」とか意見される。

 せやさかい、お風呂場まで行って念のために確認したら間違ってた……で、戻ってきたんかと思た。

 

「少しいいかなあ」

 

 背中にかけられた声は詩ちゃんやった。

「アハハ、留美ちゃんかと思た(^_^;)、なに?」

「えと……」

 コタツに入って、ミカンの皮を剥こうとして、けっきょく止めてから切り出した。

「あたし、家を出る」

「え…………?」

「正確に言うと、日本を出る。二年間、とりあえずね」

「え、高跳びすんの!?」

「高跳び? なんで?」

「警察に追われて的な? みたいな? ぽい?」

「ぽくないわよ」

「流行ってるやん、フィリピンとかに」

「わたしはルフィーか!」

「イテ」

 空手チョップを食らわせられる。

「じつは、留学するんだ」

「落第!?」

「それは留年じゃ!」

「あはは( ´艸`)」

「コロナで延び延びになってたけど、やっとね」

「どこに留学するのん?」

「……ヤマセンブルグ」

「え、ヤマセンブルグ!?」

「去年、行ったでしょ、エディンバラとヤマセンブルグ……」

「うん、二キロ太って帰った」

「さくらは食べてばっかりだったよねえ」

「そんな、尊敬せんといて(^_^;)」

「してないから」

「さよか」

「妖精とか古代ゲルマン人とか、おとぎ話が、まだ現役で生きてるのよ」

「ああ、あったあった! 妖精の飛び出し注意の標識とか、笑ってしまっちゃいました!」

「旅行中に、三回ほど女王陛下と個人的にお話したの」

「ええ、せやったん?」

「資料や本には無いおとぎ話とか古代神話とか、妖精のお話とか」

「せや、最初に行った時は、ソフィーがリアル悪魔祓いしてた!(053『エディンバラ・9』)」

「『そんなに、フォークロアが好きなら、いっそ留学に来ない?』て勧めてくださって」

「な、なるへそ……よかったやんか!」

「あ、ありがとう」

「ほんなら、歓送会せならあかんやんか! 伯母ちゃんに言うてこなら……」

「さくらぁ」

 え……詩ちゃんが袖を掴む。

「明日には出るんだよ、日本を……」

「え……ええ!?」

「ごめん、つい言いそびれて」

「う、ううん、そんなん気にせんとって!」

「ありがとう」

「そや! ということは、向こうで二年間は頼子さんといっしょなんや!」

「え、ああ、まあね」

「ああ、ちょっとウラヤマやなあ……」

「あ、荷物とかは整理して片づけておいたから、使ってくれていいから、わたしの部屋」

「う、うん……」

 

 ちょっと寂しい日曜の夜になってしもた……。

 

 ☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・100『その日がやってきた!』

2023-01-30 11:08:40 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

100『その日がやってきた!』 

 

 


 いよいよロケの日がやってきた。

 ロケ現場は荒川の堤防と河川敷。

 自転車を連ねて堤防に登ったら、早咲きの菜の花の中にロケバスが来ていて、ADさんやスタッフの人たちが忙しそうに動き回っていた。


 梅の蕾も、まだ硬い二月の末日だけれど、まるで春の体験版のような暖かさだった。

 はるかちゃんは、まだロケバスの中なんだろう、姿が見えない。

 そのかわりロケバスや、撮影機材が珍しいのか、乃木坂さんがチョロチョロ。わたしたちに気づいても知らん顔。


 やがて、一段下の土手道を黒塗りのセダンが登ってきた。


「あ、あの運転手さん、西田さんだわよ!」

 夏鈴が手を振ると―― おお、戦友 ――って感じで、西田さんが手を振り返してくれる。

 五十メートルほど手前の土手道で車が停まると、運転席から西田さん。助手席からサングラスの男の人が出てきて伸びをして、西田さんが後ろのドアを開ける。

 伸びをしてサングラスをとった男の人は……ゲ、高橋誠司!?

 右のドアからは、キャピキャピの女の子が出てきて、目ざとくわたし達を見つけて駆け寄ってきた。

「お早う、乃木坂演劇部!」

「あ……ども」

 だれだろ……と、考えるヒマもなく、その子はロケバスの方へ。途中で気づいたように振り返って、戻ってきて挨拶した。

「NOZOMIプロの上野百合です。よろしくね!」

「上野百合って……?」

「まどかが言ってた新人さん……」

「たぶん……」

 似てる……と思いながら、三人とも口にはしなかった。

「おはよう、乃木坂の諸君」

「「「あ、お早うございます」」」

 上野百合に見惚れていたら、高橋誠司が、すぐそばに来ている!

「ほんとうは、姉妹揃って、うちの事務所に入れたかったんだけどね」

「え?」「じゃ?」「やっぱり!」

「お姉ちゃんの方は、アメリカに逃げられちまった」

「え?」「妹?」「アメリカ!?」

「河川敷のロケだっていうから、寒さ対策してきたんだけど、要らなかったなあ」

「はい、春の体験版です!」

「うまいこと言うねえ、さすがは個人演技賞! セーブデータは製品版でも使えますってね」

「「ハハハ」」

 わたしたちを煙に巻いて後ろ手でバイバイして行ってしまった。

 袖口から極暖が覗いていた。

 

 そうして、驚くことがもう一つ。

 

「あ、潤香先輩!」


 潤香先輩が、紀香さんに手をとられながらやってきた。

 さすがに立っているのは辛そうで、折りたたみの椅子が出された。

「ありがとう和子さん」

 それは、西田さんのお孫さんだった。

「お互いの、再出発の記念にしようって。お嬢の発案なんです」

「アメリカって聞きましたけど?」

 夏鈴が目を輝かせる。

「はい、九時半の飛行機です」

「向こうでも、演劇部の顧問やるのかなあ!」

「きっと海兵隊!」

「いえ、サキお嬢様と替わってニューヨーク支社でお勤めになられます」

 勤めるどころじゃない、たぶん支社長。TAKEYONAで聞いてしまった印象はそうだ。

「あ、たぶんあの飛行機」


 紀香さんが指差した空にはJALの後姿。手元のスマホを見ながらだからトレースしていたんだ。


「わたし、あなたたちに発表したいことがあるの。お姉ちゃん、ちょっと手をかして」

「大丈夫、潤香?」

「うん。この宣言は立ってやっときたいの」

 潤香先輩の真剣さに、わたし達は思わず気を付けしてしまった。


「わたし、この四月から、もう一度二年生をやりなおす」


「それって……」

「出席日数が足りなくて……つまり落第」

「学校は、補講をやって、進級させてやろうって言ってくださるんだけどね、潤香ったら……」

「そんなお情けにすがんのは、趣味じゃないの」

「一学期の欠席がなければ、いけたんだけどね……」

「怒るよ、お姉ちゃん。これは、全部わたしがしでかしたことなんだからね」

「先輩……」

 わたしも胸がつまってきた。

「ほらほら、まどかまで。わたし、この留年ラッキーだったと思ってんのよ。だってさ、あんたたちと、もう二年いっしょにクラブができるじゃない。いっしょにがんばろ! 今度は全国大会!」

「「「は、はい!!」」」

 元気に返事して、見上げた空には、もうJALの後姿は見えなかった。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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