大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・34『巣鴨』

2023-01-07 11:38:26 | 小説3

くノ一その一今のうち

34『巣鴨』 

 

 

 お年寄りが多いねえ!

 

 巣鴨の改札を出ると、まあやが感動した。

「やっぱりとげぬき地蔵とかがあるしね」

 巣鴨は別名『お婆ちゃんの原宿』と呼ばれるくらいにお年寄りが多い。

 うちのお祖母ちゃんも時々来ているんで話には聞いていた。

 商店街に向かうと、活気は十分なんだけど雰囲気が昭和。

 アーケードっていうのか屋根が無くって、一見ショボいんだけど、シャッターで閉まっている店なんか無くって、買い物客が多くって、そのほとんどがお婆ちゃん!

「昭和って、こんな感じなんだろうねぇ……」

 まあやはツボにハマったようで生き生きしている。

 行儀のいい子だから、いつでも笑顔なんだけど、今日の笑顔は普通にティーンの女の子として楽しんでいる。

「明太子……自然食品……蕎麦屋さん……季節料理……お饅頭屋……まぐろ屋さん……焼き芋屋……甘味と蕎麦……」

 いちいち口に出して感動する、可愛い(^_^;)んだけど、正体ばれるとヤバイよ。

 まあやは『吠えよ剣』で人気がある通り、中高年の女性、つまり、この地蔵通り商店街を闊歩しているお婆ちゃんたちのアイドルであるわけで、バレたら人だかりになること間違いなし。

「あ、塩大福めっけ!」

「あ、ちょ……」

 止める間もなく『名物塩大福』の看板に突撃していく。

「ほい、食べながら行こう(^▽^)/」

 一個130円の塩大福、一個はポケットに、一個を、そのままハムハムしながら商店街を進む。

「たしかに、若者向けのお店って、皆無だよねぇ……」

 アクセとかブティックとかスィーツとかの片仮名の店が一つも無い。

「あ、あった!」

 初めて渋谷にやってきた高校生がお目当ての店に突撃していくノリだよ。

 

 赤パンツ!

 

 別に!マークが付いているわけでは無いんだけど、雰囲気的には!マークが三つぐらい付いている感じで看板が出ている。

「やっぱり、巣鴨に来たら潮大福と赤パンツ!」

 そう言って、さっさと買ってきた赤パンツの一つを押し付ける。

「ほんとうは、もっとゆっくり選びたかったんだけど……」

「若者は、ああいうお店にはいかないから……」

「だよね、視線が集まるのは、そういうことなんだよね。でも、バレちゃうんじゃないかと思うとハラハラしちゃって」

「まあや、あんた楽しんでるよね?」

「うん、おかげ様でぇ(^_^;)……あ、あの食堂、エビフライ定食がすごいんだよ!」

「ダメ!」

 さすがに止めた。食事なんかしたらマスク外さなくちゃならないから、絶対不可!

「あはは……だろうねぇ」

「このままじゃ、とげぬき地蔵に行ってしまうよ。目的地は違うんだから」

「あ、そうだね、三時には局入りだったよね」

 

 実は、今日は仕事の合間を縫ってお墓参りに来ているんだ。

 

 お墓と言っても、まあやのご先祖でも、わたしのご先祖でもない。

「どこなんだろう、さな子さんのお墓は……」

 急きょ花屋さんで買ったお花を持って、本妙寺というお寺の墓地に来ている。

 ずっと千葉周作の妹の役をやっているので、一度はお参りしておこうと思っていたまあや。

 千葉周作のお墓、きっと、その横だか斜め向かいぐらいにはあるんだろうと見当をつけた。

「あ、あった!」

 周囲のお墓よりも首一つ高くて大きなお墓。横には『剣豪 千葉周作成正の墓』書かれた木製の標柱が立っている。

「ええと……」

「見当たらないねえ……」

 周作の墓は立派に立っているけど、さな子のお墓が見当たらない。

 思い当たった。

「ねえ、さな子は龍馬とは結婚できなかったけど、他の人とは……」

「え、あ……ちょっと持ってて」

 花を押し付けると、まあやはスマホを出してググり出した。

「ああ、やっちゃったあ……さな子のお墓は山梨だって!」

「出直しだね……」

「うん……え……ええ?」

「どうかした?」

「さな子は周作の妹じゃないよ!」

「ええ?」

「周作の姪だって……」

 

 感情量の多いまあやは、自分の戸籍の秘密を知ったみたいに落ち込んだ。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍)
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者

 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・77『焼き芋』

2023-01-07 07:47:53 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

77『焼き芋』 

 

 

 里沙の目算通り、談話室の掃除と整備には三日かかってしまった。

 電球は半分だけの交換……というか半分ですんだ。LEDの電球なので、少なくてすむ。むろんシャンデリアまでは直してもらえなかったけど、稽古場の明るさとしては十分だった。ヒーターは三台。べつにケチられたわけじゃない。電気容量が三台でいっぱいになるので仕方がない。でも、これでは少し寒い、今後の課題。

 不思議なことは、なにも起こらなかった。

 わたしを除いて……なーんちゃってね。

 あの男子生徒は、あれから現れない。やっぱ、なんかの見間違い……でも、ひょっとした拍子にに気配を感じる。ほんの瞬間なんだけど視線を感じる。寂しげだけど温もりのある視線。

 その日も、ピアノを拭いていて、それを感じた。おいしそうな匂いとともに……あれ?

 ふりかえったら、立っていた……夏鈴が焼き芋の入った袋を抱えて。

「フン。ヒヒヒョウヘンヘイハラ……」

「焼き芋くわえたままじゃ、分かんないでしょうが!」

「……だって、袋からこぼれ落ちそうなんだもん……あ、理事長先生の差し入れ。あとで様子見に来るって」

 それだけ言うと、夏鈴は本格的にパクつきだした。

 わたしも、一つ頂いて手を洗っていないことに気づき。手を洗いに廊下に出たところで出くわした。山埼先輩と峰岸先輩が石油ストーブを運んでくるのに。持つべきものは先輩、これで寒さ問題は解消。

 不幸なことに、わたしは夏鈴と同様に焼き芋を口にくわえたまま。それも、口の端っこからはヨダレを垂らしながら。

「まどか、おまえってほんと、三枚目なんだよな」

 峰岸先輩がしみじみ言う。

「フヒ、フハハハハ、ヘフ」

 我ながら情けない……で、ハンカチを出して焼き芋をくるんで手に持った。

「ここ、ガスは危なくて使えないから、石油ストーブ。技能員のおじさんから」

「ありがとうございます。あ、中に里沙がいます。食べきれないくらい焼き芋ありますから、先輩たちもどうぞ」

「そりゃあ、ゴチになるか」

 山埼先輩は行っちゃったけど、峰岸先輩が振り返った。

「まどか。おまえら自衛隊の体験入隊に行くんだって?」

「え、あ……はい」

「よかったら、オレも入れてくれないかなあ。学年末テストも終わっちゃったし、めったにできないことだからな」

「はい、喜んで!」

 と……言ったものの、わたしは体験入隊のことすっかり忘れていたのだ。で、片手でスカートの中の携帯をまさぐっていたら、プツンと音がしてスカートのホックが外れた。

「ウ……!」

 焼き芋を放り出し、慌ててスカートを押さえた。

 すると、なんということ。焼き芋がハンカチにくるまれたまま空中で停まっちゃった……そして、ゆっくりと窓辺の窪んだところに着地した……。

 その時感じた温もりは、焼き芋のそれだけじゃなかった。

「……というわけで、四人追加でよろしく!」


 忠クンは、まだなにか言いたげだったけど、用件をすませ、さっさとスマホを切った。

 わたしは部室に戻り、スカートを繕いながら携帯をかけていたのだ。

 念のため、下はジャージを穿いております。

 ぬるくなった焼き芋を持ち上げると、マッカーサーの机がカタカタいった。

 なんだか笑われたような気がした。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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