くノ一その一今のうち
お年寄りが多いねえ!
巣鴨の改札を出ると、まあやが感動した。
「やっぱりとげぬき地蔵とかがあるしね」
巣鴨は別名『お婆ちゃんの原宿』と呼ばれるくらいにお年寄りが多い。
うちのお祖母ちゃんも時々来ているんで話には聞いていた。
商店街に向かうと、活気は十分なんだけど雰囲気が昭和。
アーケードっていうのか屋根が無くって、一見ショボいんだけど、シャッターで閉まっている店なんか無くって、買い物客が多くって、そのほとんどがお婆ちゃん!
「昭和って、こんな感じなんだろうねぇ……」
まあやはツボにハマったようで生き生きしている。
行儀のいい子だから、いつでも笑顔なんだけど、今日の笑顔は普通にティーンの女の子として楽しんでいる。
「明太子……自然食品……蕎麦屋さん……季節料理……お饅頭屋……まぐろ屋さん……焼き芋屋……甘味と蕎麦……」
いちいち口に出して感動する、可愛い(^_^;)んだけど、正体ばれるとヤバイよ。
まあやは『吠えよ剣』で人気がある通り、中高年の女性、つまり、この地蔵通り商店街を闊歩しているお婆ちゃんたちのアイドルであるわけで、バレたら人だかりになること間違いなし。
「あ、塩大福めっけ!」
「あ、ちょ……」
止める間もなく『名物塩大福』の看板に突撃していく。
「ほい、食べながら行こう(^▽^)/」
一個130円の塩大福、一個はポケットに、一個を、そのままハムハムしながら商店街を進む。
「たしかに、若者向けのお店って、皆無だよねぇ……」
アクセとかブティックとかスィーツとかの片仮名の店が一つも無い。
「あ、あった!」
初めて渋谷にやってきた高校生がお目当ての店に突撃していくノリだよ。
赤パンツ!
別に!マークが付いているわけでは無いんだけど、雰囲気的には!マークが三つぐらい付いている感じで看板が出ている。
「やっぱり、巣鴨に来たら潮大福と赤パンツ!」
そう言って、さっさと買ってきた赤パンツの一つを押し付ける。
「ほんとうは、もっとゆっくり選びたかったんだけど……」
「若者は、ああいうお店にはいかないから……」
「だよね、視線が集まるのは、そういうことなんだよね。でも、バレちゃうんじゃないかと思うとハラハラしちゃって」
「まあや、あんた楽しんでるよね?」
「うん、おかげ様でぇ(^_^;)……あ、あの食堂、エビフライ定食がすごいんだよ!」
「ダメ!」
さすがに止めた。食事なんかしたらマスク外さなくちゃならないから、絶対不可!
「あはは……だろうねぇ」
「このままじゃ、とげぬき地蔵に行ってしまうよ。目的地は違うんだから」
「あ、そうだね、三時には局入りだったよね」
実は、今日は仕事の合間を縫ってお墓参りに来ているんだ。
お墓と言っても、まあやのご先祖でも、わたしのご先祖でもない。
「どこなんだろう、さな子さんのお墓は……」
急きょ花屋さんで買ったお花を持って、本妙寺というお寺の墓地に来ている。
ずっと千葉周作の妹の役をやっているので、一度はお参りしておこうと思っていたまあや。
千葉周作のお墓、きっと、その横だか斜め向かいぐらいにはあるんだろうと見当をつけた。
「あ、あった!」
周囲のお墓よりも首一つ高くて大きなお墓。横には『剣豪 千葉周作成正の墓』書かれた木製の標柱が立っている。
「ええと……」
「見当たらないねえ……」
周作の墓は立派に立っているけど、さな子のお墓が見当たらない。
思い当たった。
「ねえ、さな子は龍馬とは結婚できなかったけど、他の人とは……」
「え、あ……ちょっと持ってて」
花を押し付けると、まあやはスマホを出してググり出した。
「ああ、やっちゃったあ……さな子のお墓は山梨だって!」
「出直しだね……」
「うん……え……ええ?」
「どうかした?」
「さな子は周作の妹じゃないよ!」
「ええ?」
「周作の姪だって……」
感情量の多いまあやは、自分の戸籍の秘密を知ったみたいに落ち込んだ。
☆彡 主な登場人物
- 風間 その 高校三年生 世襲名・そのいち
- 風間 その子 風間そのの祖母(下忍)
- 百地三太夫 百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
- 鈴木 まあや アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
- 忍冬堂 百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
- 徳川社長 徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
- 服部課長代理 服部半三(中忍)
- 十五代目猿飛佐助 もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者