大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 102『双ヶ岡に待ち構える』

2023-01-12 15:05:50 | ノベル2

ら 信長転生記

102『双ヶ岡に待ち構える』信長 

 

 

 丘に駆けあがると、すでに信信コンビは南を向いて轡を並べていた。

 

 取り巻きたちも、よく訓練されていて、丘の中央には孫子と毘沙門の旗印が翩翻と翻っている。

「遅れた分だけ、良い戦支度ではあるな」

「大山祇神社大宮司(おおやまづみじんじゃだいぐうじ)の息女・鶴姫の鎧ね、素敵よ」

 褒め殺すつもりか、その手にはのらんぞ。

「敵の規模は?」

「まだ見えん」

「情報はリュドミラからだ、さすがは二宮忠八の紙飛行機、敵の動きよりも数倍早い」

「早く飛び過ぎたのか、迷彩柄に窯変していたわ」

 見ると、一人だけ旧陸軍の軍装で緊張している忠八。学園の生徒たちは、乙女生徒会長を先頭に丘の下で鶴翼の陣を布いている。軍装はまちまちだが、統制はとれている。

 ん?

 謙信の背後の茂みに気配がしたかと思うと源義経が飛び出してきた、この扶桑で鎌倉期の転生者は初めて……と思ったら違った。

「なんで、こんなに早い!?」

「ヘッヘー、八艘飛びの鎧だぞ!」

 オオーーー((((⊙∀⊙))))!!

 丘の兵たちもいっせいに義経……の鎧を着た市の姿にどよめいた。

 赤糸縅大袖鎧。

 パッと見は大仰な大鎧に見えているが、札薄く、草摺も八間で胴丸の仕立てになっている。小柄な義経ならではで、壇ノ浦の八艘飛びは、この鎧で成し遂げたと言われているぞ。そして、俺の鶴姫鎧同様に古くから大山祇神社に奉納されていた名品で神意を被っていると言われる。くそ、敦子のやつ市の肩を持ちやがって!

「上総介(俺のこと)の着領は重要文化財だが、市のは国宝だな」

 信玄が止めを刺す。そう言えば、信玄の着領も派手な金小札朱糸縅大袖鎧だが、同じコンセプトで胴丸の仕立てになっている。

 まあいい、勝負は本番の戦だ。

 おおよその軍勢が出そろって、信玄が馬を前に進めた。

「リュドミラの知らせによると、織部が三国志の貴人を伴って逃げてくる。その追跡を口実に魏の王弟、曹素が大軍を擁して仕掛けてくるということだ。方々、これは、過ぐる元寇以来の国難になるやもしれぬ! 心して待ち受けよ!」

 オオオオオオオオオオオ!!

 丘全体が呼応したかのような勲しの声、大河ドラマなら、最終回前の大戦のノリになってきた!

 

「前方、境の森に騎馬! 突っ込んでくる!」

 

 吠えたのは武蔵。丘の杉の木に登り物見をしていたのだ。

 見敵必殺の武蔵、敵を見れば、総毛だつような殺気を放つ奴だが、それが無い。

 大軍の来襲を予見し、気は高まるものの、寂と静もる。学院も学園も士卒ともに徒に逸ることが無い。

 さすがは来たるべき再転生に夢だか運だかを賭ける者どもではある。

 数秒経った。

 

 ズサ

 

 杉の木から飛び降りるや、武蔵一人が丘を駆け下りた。

 抜け駆け……いや、あの剣術馬鹿、麓の学園生に大刀を預けるや、さらに足を速める。

 すると、境の森から一騎の馬が駆け抜けてきた。

 遠目にも明らかだ、馬の腹を蹴りながらやってくるのは織部を庇いながら見事に手綱を捌く曹茶姫だ!

 

 いち早く気づいた武蔵が懐かしさのあまり……いや、ちがう。

 

 茶姫の馬を見送るや、武蔵は腰の脇差を抜いて森を睨み据える。

 分かった、ほんの数騎だが追いかけてくる。

 森の際まで迫ってきた様子だが、追手は森から出ることはせず、そのままとって返した。

 

 武蔵の奴、脇差一本抜き放つだけで追手を睨み返してしまいおった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟

 

 

 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・82『幽霊さんの生き甲斐』

2023-01-12 07:33:11 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

82『幽霊さんの生き甲斐』 

 


「なんだい?」

「……潤香先輩のこと助けたの、乃木坂さんじゃないの!?」

 ただの閃きだったけど、図星のようだ、乃木坂さんはスカートのときと同じ反応をした。


「潤香君は君のようにはいかなかった。破れた血管を暫く固定しておくのが関の山。幽霊の応急治療はMRIでも見えない。あとは自然回復するのを待つだけだったんだけどね。立て続けに二回。二回目に切れたのは何故だかわかるかい?」

「……ソデのとこで平台に頭ぶつけたからじゃ……ないの?」

「それも原因の一つだけど直接的には、まどか君、君なんだよ」

「わ、わたし(# ゚Д゚#)!?」

「あの日、潤香君は屈んで靴を履こうとして君のことを思い出したんだ。君は、あの芝居の稽古中、ずっと潤香君の真似をやっていただろう?」

「え、うん……」


 わたしは、あるシーンを思い出した。キャンプに行く前の日に真由が靴を試すシーン。で、スタイル抜群で体の柔らかい先輩は、とてもカッコヨクやるわけ。
 わたしは何度やっても、オッサンが水虫の手入れしてるようにしかできなくて、このシーンになると、箱馬に腰掛けて、パクろうとして必死。一度など仰向けにひっくり返って道具のパネルを将棋倒しにして、怒られて、笑われて、大恥だった。


「そうさ、潤香君は靴を履こうとして、それを思い出したんだよ。ゆかしい潤香君は、たとえ本人が居ないとはいえ、その努力を笑ってはいけないと堪えたんだよ。屈み込んだ姿勢で笑いを堪えたものだから、瞬間的に血圧が高くなり、応急処置だった脳の血管が破れてしまった」

「そんな……わたしが原因だったなんて……(-_-;)」

「大丈夫だよ。潤香君は間もなく意識も回復して、もとの元気な潤香君に戻る。そうでなきゃ君に言える訳がないじゃないか」

「ほんと!? ほんとに潤香先輩は良くなるの!?」

「幽霊は嘘は言わないよ。なあ、みんな」


 乃木坂さんは、椅子たちに呼びかけた……椅子の人たちが答えたような気がした。


「僕は、空襲で死んだあの子が自分の姿をとりもどし、そして無事に往くのを、見届けるだけのつもりだった。あの子が自分の姿をとりもどしたのが去年の十一月」

「それって……」

「そう、潤香君が階段から転げ落ちた前の夜。でも、その時は、それだけで済ますつもりだった」

「それがどうして……」

「だって、そのあと立て続けだったろう。潤香君はまた頭打ってしまうし、意識不明になってしまうし。まさか君が代役やるなんて思いもしなかったし。そして例の火事……」

「あれは……」

「幽霊でも、火事を防ぐ力はないよ。垂れた電線をしばらく持ち上げて発火を遅らせるのが精一杯。だから、みんなが倉庫を出たところで力尽きて手を放した……これで、みんなを助けられたと思ったら、どこかの誰かさんが火が出てからウロウロ入ってくるんだもの」

「あ、あのことも……」

「助けてあげたかったんだけど、空襲で死んだもんだから、火が苦手でね……しかし、大久保君は大した子だよ。あの火の中を飛び込んでくるんだもの。並の愛情じゃできないことだよ」

「それは……感謝してます」

「感謝……だけ?」

 意地悪な幽霊さんだ。

「大久保君も、まだ未熟だ。大切に育んでいきたまえ。それから貴崎さんは辞めちゃうし、演劇部は解散……すると思ったら、起死回生のジャンケン……ポン。そして君達三人組が、事も有ろうに、ここで稽古を始めちゃった」

「ごめんなさい、無断で」

「いいんだよ。幽霊が言ったら可笑しいけど、僕の生き甲斐になってきた」

「ハハ、幽霊さんの生き甲斐」

「と、いうことで、宜しく頼むよ!」


 そこで、軽いめまい目眩がして、座り込んでしまった。


「まどか、大丈夫?」「保健室行こうか?」

 里沙と夏鈴が覗きこんできた……そこは、中庭のベンチ。

「あ……もう大丈夫。わたしずっとここで?」

「ずっともなにも、立ち上がったと思ったら、バタンとベンチに座り込むんだもん」

「あ、もう授業始まっちゃう!」

「なに言ってんのよ、たった今座り込んだとこじゃないよさ」

「何分ぐらい、こうしてたの?」

「ほんの二三秒だよ」

 そうなんだ……妙に納得するまどかでありました。

「元気だったら、明日のことだけどさ……」

 風の吹き込まない中庭は、冬とは思えない暖かさ……かすかに聞こえてきました。
『埴生の宿』の一番。

 のどかなりや 春の空 花はあるじ 鳥は友……♪

 その友の小鳥のさえずりのようなお喋りの中、それは切れ切れにフェードアウトしていきました。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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