銀河太平記・139
ドッカーーーーーーン!!
最後の中華弁当が売れてたところで大爆発が起こった!
台にしていたビールケースが吹っ飛んで、弁当を運んできたワゴンもあさっての方角を向いてひっくり返ってしまった。
「もおおおお、洗濯したてを着てきたのにぃ!」
巫女服の袖と袴がベロベロになったハナが文句を垂れる。
なんの爆発か理解するのに数秒かかった。
ドッグの洛陽号が定位置よりも50メートルほど後ろにずれて、少し左舷に傾いて黒煙を上げている。
「店長、洛陽が爆発したんすよ!」
「見に行こう!」
「ガッテン!」
瓦礫を飛び越え、破片を踏みしだきながらドッグの際を目指す。
ウゥゥゥゥゥゥゥゥ! ウゥゥゥゥゥゥゥゥ! ウゥゥゥゥゥゥゥゥ!
サイレンが鳴り響き、手すきの工員やロボットがドッグに向かい、ドローンが状況把握のために頭の上を過ぎていく。
「わ、めちゃくちゃだ!」
洛陽号はバルバスバウのところが使用済みのクラッカーのように弾けてささくれている。
その衝撃で艦尾方向に動いて、ドッグのゲートにしたたかに艦尾をぶつけてしまっている。
「店長、人が倒れてるよ!」
ドッグの底には、壊れた人形のようになって数十人の工員や技術者、ロボットが転がっている。
鉱山事故に慣れている西之島の人間やロボットは、すぐには事故現場には踏み込まない。事故の状況を把握しなければ、二次災害の危険があるからだ。
「あ、あいつら!」
それを知っているから、ハナやドッグの工員は、うかつには近づかない。その中で、ドッグの中に降りようとしている奴らが居る。漢明から派遣されている技術者たちだ。
「いま、近寄っちゃダメだ!」「现在不可以靠近!」
日漢両方の言葉で忠告が飛び交う。ためらって立ち止まる者もいるが、二十人ほどが聞かずに下りていく。
「あいつらを止めろ!」
仕方なく、監督が叫び、耐性のあるロボットたちが下りていく。
―― まずい! ――
同じ思いがしたのは、長年島の鉱山で働いてきた者の勘だろうね、大事故の直前には全身の毛が逆立つような予感がすることがある。
ドッゴオオオオオオオオン!!
さっきの倍ほどの大爆発が起こり、目の前が真っ赤になる。
とっさにハナを庇って地面に身を投げる!
「…………、………………!」
予見していたので気絶することは無かったけど、耳が聞こえない。
繰り返してくれた口の形から「店長、大丈夫っすか!」ということが分かる。
「ここにいちゃマズい、食堂の方に帰るよ!」
「ガッテン!」
食堂に戻るころには本格的な救助が始まっていた。
食堂の前を、落盤事故の時と同じ装備で人もロボットも駆けていく。
『ドッグで爆発事故! 手すきの者は直ちに救助装備を持って、ドッグに急行してください! ドッグで……』
「社長が自……で……て……っす!」
「え?」
―― 社長が自分で放送してるっす! ――
「責任感強いからねえ、社長は……ん?」
―― え? ――
「ハナ、いまのEEG(脳波)通信だろ?」
「え、あ……!」
「なんだ、そうだったのか」
「ああ、なんかどっちでもいいかなって(^_^;)」
むろんどっちでもいいことだ。
昔の感覚で言えば、東京人だと思っていた友だちが、実は東京弁の上手い大阪人だった程度の話だ。
ハナは、サバサバしているようで案外シャイな性格なのかもしれない。
しかし、洛陽号の壊滅的な爆発は、落ち着きかけた日漢、西之島の関係をさらに難しいものにしていった。
※ この章の主な登場人物
- 大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
- 穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
- 緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
- 平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
- 加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
- 姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
- 扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
- 本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
- 胡蝶 小姓頭
- 児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
- 孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人
- 森ノ宮茂仁親王 心子内親王はシゲさんと呼ぶ
- ヨイチ 児玉元帥の副官
- マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
- アルルカン 太陽系一の賞金首
- 氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
- 村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
- 主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
- 須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
- 劉 宏 漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
- 王 春華 漢明国大統領付き通訳兼秘書
※ 事項
- 扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
- カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
- グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
- 扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
- 西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
- パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
- 氷室神社 シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王