やくもあやかし物語 2
『あっちに水があるーーー(>〇<)!』
デラシネの手袋に入れて放り上げると、校舎の屋上ぐらいの高さで御息所が叫んだよ。
「行ってみましょうか(^▽^)!」
オリビアが元気に前に出て、二人で御息所が指差したところに向かった。
そこは、草むらが少し高くなっていて、丘というほどじゃないんだけど、遊園地の広場なんかで人工的に作られた山ぐらいの感じ。
浅間山のカルデラを1/100ぐらいにしたら、こんな具合という感じで、カルデラの中にはきれいな水が漲っている。
「火山みたいだから濁っているかと思ったら」
「けっこうきれいですねぇ」
『ほれ、これを使って水を汲め』
御息所が、キャンパス地の布バケツを放って寄こす。
「ありがたいけど、これだと何十回も往復して、お風呂入る前にくたびれてしまう」
『わたしも手伝うぞ!』
えらそうに差し出したのは、デパ地下でジュースの試飲に使うような小さな紙コップ。
「お気持ちは嬉しいのですが(^_^;)」
オリビアも笑顔のまま困ってるし。
『う~ん……じゃあ、あれはどうだ!』
御息所の後をついていくと、カルデラの縁の草むらにポンプとホースが置いてある。
「看板になにか書いてありますわよ」
オリビアが倒れた看板を起こすと――水を使う時は、これを使用してください――と書いてある。
「なかなか行き届いているわね。でも使い方は……」
「ええと……」
オリビアが操作するとパイロットランプが数回点滅して、その横の赤ランプが緑に変わった。
ブィーン
ポンプが動き始めた!
『オリビア、慣れてるみたいだな』
「ええ、プリンスエドワード島に住んでいたころに、使ったことがあるの」
プリンスエドワード島、どこかで聞いたことがある。
『あ、ダメだ、ホースに穴が開いていて水がダダモレだぞよ!』
「あらあら」
「ちょっと見てみる!」
ホースを伸ばして、先の方からチョロチョロ出てくる水を確かめてみる。
『どうだぁ?』「どうかしらぁ?」
「うん、勢いは無いけど、いけるみたい。水もきれいなままだし」
「じゃあ、ちょっと時間はかかるけど、このままお風呂に入れてみましょうか」
「うん、そうだね。バケツで汲むよりはウンとましみたい」
カルデラからホースを伸ばして風呂桶に先っぽを入れる。水の勢いでホースが暴れてはいけないので、しっかりと押さえたよ。
「ヤクモさんも、慣れてらっしゃるみたいですねぇ」
「あ、実家で庭掃除とお風呂掃除は、わたしの仕事だったし。オリビアは?」
「わたしもお風呂を沸かすのはやりましたけど、掃除や片づけは通いのメイドさんがしてくれましたので」
「あ、やっぱりオリビアはお嬢さまなんだぁ」
「いえいえ、父や母が心配性なだけで(^_^;)」
いや、ぜったいお嬢さまだよ。でも、こういうことを深入りして聞くのは下品だからね。
わたしも、中学を卒業して、今の学校に入って、ずいぶん賢くなったと思うよ。
『じゃあ、もっかい水を流すぞよぉ』
御息所がスイッチを入れて、ホースが生き物のようにピクピクして水が流れ始める。
プシューー
数秒して水がやってきたけど、あちこち何十か所も水漏れ。
でも、漏れた水は盛大なミストみたいになってクッキリと虹を映した。
ウワァ!
少しの間、三人で見とれてしまったよ。
☆彡主な登場人物
- やくも 斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
- ネル コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
- ヨリコ王女 ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
- ソフィー ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
- メグ・キャリバーン 教頭先生
- カーナボン卿 校長先生
- 酒井 詩 コトハ 聴講生
- 同級生たち アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
- 先生たち マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
- あやかしたち デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女