大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・219『高坂侯爵の太っ腹』

2021-06-25 09:40:52 | 小説

魔法少女マヂカ・219

『高坂侯爵の太っ腹』語り手:マヂカ     

 

 

 復興大売出しに行っておいで。

 

 夕食の席、食前酒のグラスを置いて、霧子のお父さんが皆を見回した。

「ご存知だったの、お父さん!?」

 霧子が身を乗り出す。

 すかさず、ノンコがグラスを避ける。

 良くも悪くも身のこなしが速い霧子は、興味が湧くと、ズズイっと身を乗り出す癖がある。

 学校の昼食でも、よくやるので、リボンがお茶やらお弁当に触れてしまってシミになる。そのために、霧子はリボンだけは七本も持っている。

 夕食だから、制服は着ていないけど、勢いでグラスやらエッグカップ、時にはお椀をひっくり返したりする。

 そういうアクシデントに、クマさんを始め高坂家の使用人たちは気をもんできたのだが、霧子の後ろに控えていると、間に合わないことが時々起こる。

 度重なると、霧子もイラついてクマさんにきつい目をしたり、クマさんも肩を落としたり。

 そこで、震災救護のボランティアで気の回るようになったノンコが、食器たちの緊急避難係りになったわけ(^_^;)。

「ああ、銀座の経営者たちは頑張ってるからな」

 

 銀座は、近代日本の、いわばショーウィンドウとして、明治の初めから整備された。

 表の目抜き通りの店舗はレンガ造りか鉄筋コンクリート。通りの真ん中には市電が走り、バスが往来し、車道と歩道の区別もなされて、まさに、日本発展の象徴であった。

 その銀座も、震災では大きな被害を受けた。

 地震の揺れによる被害はそれほどでもなかったが、火事による被害は他と変わりない。

 なまじの耐火構造のため、内部が焼けて表のレンガ造りや鉄筋コンクリートが骸骨のように残ってしまった。

「それが、十一月には復興大売出しをやると言うんだよ」

「え、もう大売出し!?」

「ああ、そうだ。華族の家も、自分の足で出向いていいと思う」

 

 この時代、華族や財閥の者は、百貨店や店の方から営業の者をこさせて、屋敷の中で品物やカタログを見て買い物をするのが一般的だった。

 当主や、その家族の者が足を運んで買い物をするのは、ちょっと下品なことと思われていた時代なのだ。

 

「賑わいを取り戻すのが大事だと思う。銀座が賑わえば、その波が東京中、しいては関東一円に広がって、より早く復興が進むことになる」

 高坂侯爵とは、ほとんど口をきいたことがないが、なかなか勘所を掴んでいると見直す。

 人によっては『ブルジョアの自己満足』と嘲笑するかもしれないが、復興は『気』だ。いわば雰囲気。悪くない考えだ。

 銀座で売られるものは、商品にしろ包装紙にしろ店員のお仕着せにしろ、使用する電力にしろ、食材にしろ、銀座の外から供給される。銀座の消費が地方や、他の産業を刺激して、結局は日本の復興と発展の力になる。

 ただ、問題がある。

 お金がない。

 華族とは体裁の良いものだけど、案外お金がない。

 総勢五十人を超える使用人、二千坪はあろうかという敷地と屋敷の保守管理、日ごろの生活。

 かかる費用は、国からの手当だけでは賄いきれない。先代から二つほど会社を経営しているらしいけど、どれだけ高坂家の経済を潤しているかは、まだわたしの知るところではない。

「さいわい、屋敷の被害はそれほどでもないし、会社も地方にあるので、物的被害はゼロだ。いささかの貯えもあることだし、それを、今回は有効に使って、帝都復興の一助になればと思う。ついては、家族、使用人全てに一時金を支給して、交代で外出し、買い物や食事、あるは観劇で使ってきてほしい」

 クマさんが、前に座っていてさえはっきりわかるくらい喜んでいるのが分かる。

 むろん、霧子は目を輝かせている。

「いちおう銀座を勧めるが、上野や浅草、他の所でも構わない。使用人に関しては貯蓄や仕送りに使ってもらっても構わないが、半分、いや四半分は使っておくれ。みんなで帝都にお金を回そうというのが、わたしの願いだからね」

「はい、承知しました!」

「わ、わたしもどす」

 霧子とノンコの息が合い、この夜は、屋敷のあちこちで高坂家の人たちの笑い声が聞こえた。

 

 ただ、請願巡査の箕作君だけは、国の給与基準に基づかない支給金は受け取れないと固辞した。

 箕作君、まじめ~(^_^;)

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

 

 


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