大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ライトノベルベスト『61式・3』

2021-06-25 06:33:03 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『61式・3』   

 




「何遍言ってもダメなのよ」

 場所をお店の中に移して本格的な会議になった。

 バイトのチイちゃんが手回し良く「準備中」の札をかけてくれた。

「う~ん、わしは平和君に、イッチョマエの男の幸せを掴んでもらいたいだけなんだがな」
「今の50代の男はまだまだ現役。相手の幸子さんも74式で、かろうじて現役。なんとか共同戦線が張れるといいんだけどね」

「被防衛対象である栞も納得済みの話なのにな」

 お祖父ちゃんは、点けかけたタバコを箱に戻しながら言った。

 お祖父ちゃんは70歳にして、ようやく禁煙に成功しかけている。いっそタバコなんか持たなきゃいいんだけど。敵から逃げ回るようでイヤだと、妙な理屈をこねまわしてタバコを持ったまま禁煙している。お父さんと同種の変わり者。

「実戦経験無しに退役するのは戦車なら幸せだけど、イッチョマエの男には酷な話よね」

 話が見えにくい人のために解説。

 61式(1961年生まれ)のお父さんは、三歳のあたしを連れたお母さんと結婚してくれた。でも、お母さんは中期のガンを患っていて、半年余りで亡くなってしまった。その後は男手一つで、あたしを育ててくれた。その間、女気はまるでなし。つまり、男としての実戦経験は無い。

 そこで、高校二年になったあたしも納得の上でのお父さん再婚計画を練っているわけ。

 あたしとしても、お父さんには男として現役のうちに再婚してもらい、できることなら、血のつながりは無いけど弟か妹ができれば言うことなし。ま、歳なんで養育の問題があるけど、それは、お祖父ちゃんの誕生日にドーンと戦車のレプリカ買っちゃうぐらいお金持ちの啓子伯母ちゃんがいるから問題なし。

 要は本人の気持ち次第ってわけ。

 見合い相手の幸子さんという人は、伯母さんの亭主の同業で、戦場カメラマン。74式なんで、今年40歳。多少リスクはあるけど、女としては現役。二十年、主に戦場カメラマンとして働いてきて、人の不幸ばかり写して、自分が見えていなかった。そこを伯母ちゃんの亭主に指摘され、お父さんの人柄と写真による選考を経て、残すは面接……世間でいう「お見合い」というやつだけ。

 で、女子高生と大人ふたりが雁首揃えて頭を悩ましている。

「で、平和君が、この作戦を拒否しとる主原因はなんだ?」

「う~ん。娘のあたしが見てもはっきりしないんだけど。照れくさい……」

「照れてカワイラシイ歳じゃないでしょ」

「それと、お母さんへの義理立て」

「それも栞をここまでにしたんだから、義理は果たしたでしょう?」

「うん……」

「まだ何かあるな、うだうだ言い訳にしとることが」

「あたしが、結婚するまでは考えられないって……」

「そりゃ、まだ時間がかかるわね」

 チイちゃんまで加わり始めた。

「外堀から埋めるか……」

 そう言って、お祖父ちゃんは、あたしの顔を見た。

「え……なに?」

「栞、おまえ好きな男はおらんのか?」

 やぶ蛇だ(#'∀'#)。

 


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