やくもあやかし物語・95
今日は、朝からお爺ちゃんと二人。
お婆ちゃんは二十年ぶりの同窓会に出かけている。お母さんは、いつものようにお仕事だし。
つまり、広い家に二人っきり。
ここに来たころはね、ごく最初のころは、なかなか自分の部屋から出られなかった。
自分の部屋が居心地がいいのと、人と二人っきりになる気まずさからね。
ちょっとマシになると、リビングに居続けた。
家族って、そういうもんだと思ってたから。
ドラマとかアニメとか見ると、家族ってのは、たいがいリビングで団欒してるでしょ。
でも、そういうのって間が持たなくなって、それで、遠慮なく自分の部屋で好きなことをやってるわけ。
遅くまでアニメの一気見してたので、チカコは消しゴムを枕に寝息を立てている。
そっとハンカチのお布団をかけてやると、廊下の向こうから音がする。
パン パン パン
なんだろ?
気になって廊下に出ると、音は、廊下を曲がった向こうからする。
行ってみると、音はお爺ちゃんの部屋からだ。
「あ、おどかしちまったかな?」
部屋を覗くと、イタズラを見つけられた子供みたいに頭を掻くお爺ちゃん。
こういう子どもっぽい仕草をしなかったら、タマゲテいたかもしれない。
床の上に座ったお爺ちゃんの周りには十丁ほどの鉄砲が並んでいた。
「モデルガン?」
お爺ちゃんの様子から、本物ではないと分かる。
「ああ、むかし、友だちに貸していたのが戻って来てね。劇団をやっていて、小道具に貸してやっていたのが、昨日戻ってきて」
「そんなに沢山?」
「ああ、貸していたのは、これとこれと……三丁だけなんだけどね、一丁だけ音がおかしいんで、他のも出してチェックしていたんだ」
それにしても、すごい量……思っても言わない。趣味は人それぞれ、パンパン撃ちだしたのもお婆ちゃんたちが出かけてからだし、お爺ちゃん気を遣ってるんだ。
パス パス
「これだけがおかしい」
「お友だちに貸してたやつ?」
「うん、コルトガバメントっていうハンドガンなんだけどね、なにかが詰まったみたいに湿気た音しかしないんだ」
「詰まってたの?」
「うん、いっかいバラシてみたんだけどね、なにも詰まってないし……まあ、年代物だし寿命かもな」
「そこに、同じようなのがあるけど」
「ああ、これは最新型の電動銃でね」
「電気仕掛けのピストル?」
「ああ、本物みたいに動作するんだ」
「へえ」
「撃ってみようか?」
「うん」
おっかないんで、軽く耳を塞ぐ。
パンパンパン
「おお……」
なんか、音が連続してるし、反動も凄くて、引き金ひくたびに、上のとこがガシって動く。
なんか、ガンダムがピストルになったみたい。
「ハハ、ギミックはほとんど本物だからな」
やんちゃ坊主みたいな笑顔のお爺ちゃん。男っていうのは、いつまでたっても子どもなんだと、お婆ちゃんが言ってたのを思い出す。
「まあ、こっちはオシャカかな」
年代物の方を押しのけるお爺ちゃん。
「どうするの?」
「婆さんも嫌ってるし、まあ、バラしてから捨てるかな」
「捨てるんだったらちょうだい」
「え?」
「ディスプレーにはなるでしょ?」
「あ、あげるのはいいけど、女どもには見つからないようにしろよ」
「ふふ、あたしも女なんですけど」
「アハハ、いっしゅん忘れた!」
お爺ちゃんは、本当は男の孫が欲しかったのかもしれない。
わたしも不敵な笑みを浮かべて、コルトガバメントを懐に部屋に戻ったのだった……。
☆ 主な登場人物
- やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
- お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
- お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
- お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
- 教頭先生
- 小出先生 図書部の先生
- 杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
- 小桜さん 図書委員仲間
- あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸