かの世界この世界:34
『迫りくるシリンダー連結帯!』
ブリ……大きくなった?
顔を洗って、シャッキリして、やっと気づいたケイト。
「やっと気づいたのか」
「ああ……なんてのか……雰囲気はちっとも変わってないから、気づくのが遅れたみたい」
「いろいろあんのよ、この世界じゃ。あんただって……」
「あたし?」
「さっさと朝ごはん食べて、食べたら出発だからね!」
チーズを挟んだだけのライ麦パンを投げると、もう歩きはじめるブリ。
「ちょ、食べる時間くらいちょうだいよ!」
「うっさい! これから先はクリーチャーとか出まくりなんだからね、かまってなんか……」
「ブリの言う通り、もう気配がするぞ……」
月の光の中、ツインテールを結ったり解いたり、その戒めのことやら主神オーディーンのこと、忘れかけている、わたしとケイトの事情など聞いておきたいこともあった。
「急がないと、向こうの方から集まって来るぞ」
「「なにが?」」
S字に曲がった道の向こう……いや、草むらや地面の中からさえ禍々しい鳴動がし始めて、道の向こうはなにか禍々しいものが凝り固まっているようで目に見えない圧を感じる。
「……走るか?」
「うん」
「いくぞ!」
ブリと共にソードを抜き放ち、ケイトは矢をつがえ、攻撃姿勢のまま禍々しさの中心に向かって駆け出す。
ウオーーー!!!
二三回、剣先に手応えがしたと思うと、ザザザザザっと音がして人一人がやっと通れるくらいの圧の隙間ができる。
「閉じる前に突っ切れ!」
「トリャーーー!」
わたしが先頭を切り、ブリもツインテールを鞭のように振り回し、ケイトは二人の頭越しに矢を射掛けながら追随してくる。
道の向こうで矢が命中する火花、ツインテールの先っぽでも盛大に火花が散っている。見えてはいないが、確実に寄せ来る化け物を打ち払っているようだ。
「セイ!」
跳躍と同時に四方を薙ぎ払う。合わせたわけではないのにブリもツインテールをヘリコプターのローターのように急旋回させて、化け物どもを打ち据えて、やっと敵の勢いをそいだ。
ギュオーーン ギュオーン ギュオオーーーン
金属的な鳴き声が引いていったかと思うと、つい今まで居たところを真ん中にシリンダーどもがひしめいている。
「まるで、油汚れの真ん中に洗剤を垂らしたようだな」
「うまい表現だけど、ケイトの奴が……」
「捕まったか?」
「あそこ!」
ブリが指差したところから数珠繋がりになったシリンダーの連結が数本伸びあがり、そのうちの四本に手足を絡み取られたケイトの姿があった。
「た、たすけてーー!」
「まずい、あれが伸びきったら手足を引きちぎられるぞ!」
シリンダーの連結帯は、ブーーンと音がしそうな勢いで外へ外へと伸び始めている。
「ち、千切れるよーーーーー!!」
「テル、右側の二本を!」
「承知!」
息の合った海兵隊のように、二人は散開し、地を這うように接近すると連結帯の根元で跳躍して、ツインテールとソードで連結帯を薙ぎ払った!
「掴まれ!」
叫ぶと同時にケイトの襟首を掴んで、根元を失った連結帯から引き剥がし、数百メートルを一気に駆けた。
途中、疾風のようにブリが追い越していく。
「結界を張る、中に入れ!」
軽々と跳躍して、着地するまでのコンマ五秒ほどの間にフィギュアスケートのトリプルアクセルのように旋回すると、ぶん回したツインテールの直径に結界が張られた。
「セイ!」
結界の中に着地! 同時にザワザワザワとシリンダーたちが押し寄せてきて、イナゴの大群のように結界の向こうに去った。
やっと一息。
気が付くと……ケイトはしっかりとライ麦パンを咀嚼していた。
☆ ステータス
HP:300 MP:100 属性:剣士=テル 弓兵=ケイト
持ち物:ポーション・5 マップ:1 金の針:2 所持金:1000ギル
装備:剣士の装備レベル2 弓兵の装備レベル2
☆ 主な登場人物
テル(寺井光子) 二年生 今度の世界では小早川照姫
ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトと変えられる
ブリ ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘
二宮冴子 二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
中臣美空 三年生 セミロングで『かの世部』部長
志村時美 三年生 ポニテの『かの世部』副部長