やくもあやかし物語 2
「少しだけ後ろめたさはあるみたいだ……」
森の中の獣道を進んで行くと、ネルが呟いた。
「後ろめたい? 誰が?」
「あ、遠くから結界張って見送りに来たやつらか!?」
「そんなこと言うもんじゃないよ、ハイジ」
「ティターニアだよ」
「あ」
「ああん、森の女親分か?」
「獣道とはいえ、ゲームじゃないんだから、こんなに歩きやすい道があるはずがない」
「え、そうなの?」
「かすかに妖力も感じる、ティターニアか、その仲間が作っておいたんだ……そうだろ、オーベロン?」
ヒッ
小さくしゃっくりしたような声がしたかと思うと、薮の向こう、木の根元あたりがホワっと光った。
「隠れても無駄だ! 見えてるぞ、オーベロン!」
シュバ
「「うわ」」
気が付かなかったのでハイジと二人で驚いてしまった。
木の葉が舞いあがって……それから何かが現れるのかと思ったら、木の葉は小柄な人の形にわだかまった。
「……やっぱり見えていたかベロン」
なんか、一昔前の人工音声みたいな声だ。それに「ベロン」てなんだ?
「国は違うがエルフも森の民だからな」
「そうだな、コーネリア・ナサニエルも森の民だったな……ウフフベロン」
「姿を見せたということは、やっぱり後ろめたいか」
「ちがう、めずらしいから見に来たベロン」
「まあ、いいだろ。見に来たのなら、こっちも自己紹介しておこうか」
「あ、それはベロン(;'∀')」
「ヤクモ、おまえから」
「う、うん」
「あ、木の葉の塊に見えているけど、上から5センチくらいのところが目だ、見つめて話してやれ」
「くそ(;'▲')」
ザワザワザワ
木の葉が騒いだ。
「下から5センチ、逆立ちしたってダメだからな」
「わ、わかった(;'▢')ベロン」
「元に戻った、上から5センチ」
「あ、えと、小泉やくもです。この度は、森のみなさんにご迷惑をかけて、デラシネのことは責任……どこまで持てるかわかりませんけど、できるだけのことは……」
「よしよしベロン」
「下手に出ることないからね、出てきたっていうことは後ろめたい証拠だから」
「よ、よろしくお願いします(^_^;)」
「お、おう、こちらこそなベロン」
「アルプスのハイジだぞ……で、ネル、あの葉っぱの吹き溜まりみたいなやつはなんだ(ΦωΦ) ?」
「ティターニアの夫のオーベロンだ」
「え、ということは森の王さまなのか!?」
「そうなのだ、エライのだベロン<(`^´)>」
葉っぱをギュっと寄せ集めて偉そうにすろオーベロン。
「アハハ、なんか蓑虫みたいだぞ」
「み、蓑虫言うな、ベロン!」
「それで、ティターニアじゃなくてオーベロンが出てきたのは、なぜ?」
「お、おう、見届けるためベロン……おっと、もう一人いるだろベロン」
オーベロンの目(のあたり)が、わたしのポケットのあたりを見ている。
あ、御息所だ!
『チ……見えてたのぉ、蓑虫ぃ』
めちゃくちゃ嫌そうに舌打ちしをてポケットから顔を出す御息所。
「ミヤスドコロって言うのか、ベロン」
『六条の御息所よ、憶えといて』
「おまえ、サキュバス ベロン?」
『サキュバスじゃないし』
「……でも、人に夢を観させる系のアヤカシ……ベロン?」
『なによ』
「…………う、ま、まあいい、ベロン。正体もバレたし、少しは助けてやらないこともないベロン。そのかわり、後で一つだけ頼まれて欲しいベロン」
『なんでもってわけじゃ……チ、行ってしまった』
ガサガサガサ……
獣道がいっそう森の奥まで広がっていった……。
☆彡主な登場人物
- やくも 斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
- ネル コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
- ヨリコ王女 ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
- ソフィー ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
- メグ・キャリバーン 教頭先生
- カーナボン卿 校長先生
- 酒井 詩 コトハ 聴講生
- 同級生たち アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
- 先生たち マッコイ(言語学)
- あやかしたち デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン