タキさんの押しつけ映画評・45
『アンナカレーニナ』
この春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ
これは悪友の滝川浩一が身内に流している映画評ですが、もったいないので本人の了解を得て転載したものです
見終わって 陶然てのか 茫然てのか…ボ~ッと歩いてました。
とは言え 気付くと ちゃんとトンカツ屋の前にいてましたけどね。 トルストイの原作に触れたのは随分昔、以降 読み返してはいませんが、内容は汲み取っていると思とりました……アタシャ この物語の何を読んでたんでしょうねぇ、自分が物語のホンの上っ面だけを素通りしていたんだと、丸太でぶん殴られた気分です。
その本作ですら、原作の一部をクローズアップしているに過ぎないと断ってあります…げに恐ろしきはトルストイの天才であります。
この作品が 先日のアカデミー賞で主要外4ノミネート(衣装デザインのみ受賞)だなんぞと…メロドラマは嫌われるってのと、ロシア文学だってのをさっ引いても…納得いかない。
主演女優賞5作品の内、アムール/インポッシブル/ハッシュパピーの3本を見ていないが、本作のキーラ・ナイトレイが見劣りするとは思えない。ジョー・ライト(プライドと偏見/ハンナ)の監督。トム・ストッパード(恋に落ちたシェイクスピア)の脚本も、メラニー・アン・オリヴァー(レ・ミッズ)の編集も、目を見張るばかりなのに……話の内容は あまりにも有名、なんせ見たことも読んだことも無い人でもご存知……「世界の名作百選」なんてな企画があれば必ず低くとも20位以内に入っている、140年前の作品なのに…
本作は殆どのシーンが劇場内で演じられる芝居の形に成っている。舞台最奥の搬入口が開くと、その先にリョービンの荘園が現れ そのままロケシーンとなる。劇場の天井が開いて花火が見えたりもする……舞台劇と映画的手法の見事なミクスチャー、敢えて映画の自由な表現法を捨てる事によって、そして舞台劇をアップで見せるテクニックを最大限に駆使して見事な映像をクリエイトしている。人物をアップにする事に拠って、貞淑な妻から人生初の恋に出会って怯える女、滅びを予感しながらも恋に飛び込んだ幸せの絶頂、そして混乱
から死へと至るアンナ。妻の噂を聞いても許そうとし、確信しても包み込もうとし、決定的に裏切られてすら その先に愛を見いだすカレーニンが見事に立ち上がるにとどまらず、リョービンとキティのカップルやオブロンスキーとドリー夫妻……物語の周囲を固める人々が鮮やかに浮かび上がっている。今までに私の知る限り4作の映画化作品があり、そのどれと比較しても本作は“最高”と評価できる。
まさに21世紀の“アンナ・カレーニナ”がここにある。
アンナの情夫であるヴロンスキーが登場した時には思わず笑いそうになった。あまりにも少女漫画から抜け出したような美男子、これまでの映画では単なるスケコマシ風に描かれる彼とその取り巻きも 皆 人間的な匂いを持って描かれている、この点がもっとも印象的であり、だからアンナの苦悩も肉を持ったリアリティを伴って現出する。衣装が素晴らしいのは、これもわざわざ書く必要無し……まだまだ触れたいシーンは山ほどあるが、これ以上はご覧になる方の感動の邪魔ってもんで もうやめます。メロドラマなんか見ないとおっしゃる方もおいででしょう。どうか、騙されたと思って劇場にお出かけ下さい。世のメロドラマの代表のような内容ですが、そこは大トルストイの代表作の一つ、その魂の物語に触れて下さい。
最大級の賛辞をもって 心よりお勧めいたします。
『アンナカレーニナ』
この春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ
これは悪友の滝川浩一が身内に流している映画評ですが、もったいないので本人の了解を得て転載したものです
見終わって 陶然てのか 茫然てのか…ボ~ッと歩いてました。
とは言え 気付くと ちゃんとトンカツ屋の前にいてましたけどね。 トルストイの原作に触れたのは随分昔、以降 読み返してはいませんが、内容は汲み取っていると思とりました……アタシャ この物語の何を読んでたんでしょうねぇ、自分が物語のホンの上っ面だけを素通りしていたんだと、丸太でぶん殴られた気分です。
その本作ですら、原作の一部をクローズアップしているに過ぎないと断ってあります…げに恐ろしきはトルストイの天才であります。
この作品が 先日のアカデミー賞で主要外4ノミネート(衣装デザインのみ受賞)だなんぞと…メロドラマは嫌われるってのと、ロシア文学だってのをさっ引いても…納得いかない。
主演女優賞5作品の内、アムール/インポッシブル/ハッシュパピーの3本を見ていないが、本作のキーラ・ナイトレイが見劣りするとは思えない。ジョー・ライト(プライドと偏見/ハンナ)の監督。トム・ストッパード(恋に落ちたシェイクスピア)の脚本も、メラニー・アン・オリヴァー(レ・ミッズ)の編集も、目を見張るばかりなのに……話の内容は あまりにも有名、なんせ見たことも読んだことも無い人でもご存知……「世界の名作百選」なんてな企画があれば必ず低くとも20位以内に入っている、140年前の作品なのに…
本作は殆どのシーンが劇場内で演じられる芝居の形に成っている。舞台最奥の搬入口が開くと、その先にリョービンの荘園が現れ そのままロケシーンとなる。劇場の天井が開いて花火が見えたりもする……舞台劇と映画的手法の見事なミクスチャー、敢えて映画の自由な表現法を捨てる事によって、そして舞台劇をアップで見せるテクニックを最大限に駆使して見事な映像をクリエイトしている。人物をアップにする事に拠って、貞淑な妻から人生初の恋に出会って怯える女、滅びを予感しながらも恋に飛び込んだ幸せの絶頂、そして混乱
から死へと至るアンナ。妻の噂を聞いても許そうとし、確信しても包み込もうとし、決定的に裏切られてすら その先に愛を見いだすカレーニンが見事に立ち上がるにとどまらず、リョービンとキティのカップルやオブロンスキーとドリー夫妻……物語の周囲を固める人々が鮮やかに浮かび上がっている。今までに私の知る限り4作の映画化作品があり、そのどれと比較しても本作は“最高”と評価できる。
まさに21世紀の“アンナ・カレーニナ”がここにある。
アンナの情夫であるヴロンスキーが登場した時には思わず笑いそうになった。あまりにも少女漫画から抜け出したような美男子、これまでの映画では単なるスケコマシ風に描かれる彼とその取り巻きも 皆 人間的な匂いを持って描かれている、この点がもっとも印象的であり、だからアンナの苦悩も肉を持ったリアリティを伴って現出する。衣装が素晴らしいのは、これもわざわざ書く必要無し……まだまだ触れたいシーンは山ほどあるが、これ以上はご覧になる方の感動の邪魔ってもんで もうやめます。メロドラマなんか見ないとおっしゃる方もおいででしょう。どうか、騙されたと思って劇場にお出かけ下さい。世のメロドラマの代表のような内容ですが、そこは大トルストイの代表作の一つ、その魂の物語に触れて下さい。
最大級の賛辞をもって 心よりお勧めいたします。