大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・《紛らいもののセラ・6》 的中した徹子さんの予感?

2015-01-12 16:28:04 | 小説・2
 《紛らいもののセラ・6》 
的中した徹子さんの予感?



 父の龍太は喜びつつも戸惑っていた。

 表面には出さないが、なんとなくの雰囲気で分かってしまう。
 父の仕事が忙しく、事故以来、直接会うのは初めてだ。
 父の会社で建造中の26DDHのアレンジミスが見つかって、年が明けてから一度も父に会っていなかった。そこで連休を利用してセラの方から会いに来たのだ。家にも帰れない忙しさなので、父の遅い昼食時を狙って、造船所にやってきた。
 家から遠いことと、造船所の構内が広いため、兄の竜一に車で付いてきてもらった。

「セラ、なんだかたくましくなったな……」

 父は、戸惑いを誉め言葉で表現した。
「うん、なんだか生まれ変わった感じ……いろんな人に会って、いろんな話をして……なにより遺族の人たちには気を遣う。たった一人の生存者だから、喜びすぎても落ち込みすぎてもきづつけちゃうから……ここ何年かは、慰霊祭の度に顔を出そうと思うの……あら、もう完食しちゃった!」
 造船所の社員食堂の大盛りカツ丼を、父と変わらない速さで食べてしまった。
「このごろ、セラの食欲すごいんだよ。帰ったその晩に団子一盛りペロリだもんな」
「いわないでよ、お兄ちゃん。あのせいで盗撮までされちゃって大変だったんだから」
「ほんとうに、竜介のことをお兄ちゃんと呼べるようになったんだな……」
 父の龍太は、口に出して言ったことはなかったが、竜介とセラが、いつまでも兄妹として打ち解けないことを気にしていた。だから、セラの変化は嬉しいのだが、事故前と印象がまるで違うので、どうしても戸惑いになってしまう。
「うん、事故の後気が付いたらお兄ちゃんが居て、自然に『お兄ちゃん』て言ってた」
「大きな事故やら、大変な体験は、時に人を変えることがあるけど……いや、お父さん嬉しいよ」

 もう少し話していたかったが、仕事が詰まっているので、親子の再会は30分あまりで終わってしまった。
 なんせ26DDHは特別高価な護衛艦である。一日工期が延びるだけで数千万円の経費がかかる。で、その出所は国民の税金である。なんとか工期を取り戻さなければ、国に大きな負担をかけてしまう。

 造船所を出て、車でしばらく行くと、セダンが側溝に脱輪して立ち往生しているのに出会った。あとから考えれば造船所への一本道にセダンがいることがおかしかった。
「脱輪ですか?」
 気のいい兄が車を止めて聞いた。外に立っていたスーツ姿の男女二人がペコリと頭を下げた。
「いや、ネコが飛び出してきましてね、それを避けようとして、この有様です。JAFを呼んでるんですが、道路事情がね。なんせ連休なもんで」
「オレの車4WDだから、引き揚げましょうか?」
「それは助かる。どなたかは存じませんが、お願いできますか」
「はい、直ぐに準備しますから」

 車の引き上げの間、一人の男は兄といっしょに作業を手伝っていたが、もう一人の女が愛想よく車中のセラに近寄ってきた。

「あの、人違いだったらごめんなさい。あなたバス事故で命拾いされた世良セラさんじゃないですか?」
 人の目がさすので車中にこもっていたセラだったが、わざわざ声を掛けられて無視するわけにもいかず、遠慮ぎみの笑顔で応えた。
「やっぱり! わたしSプロ事務所の木本と申します……」

 徹子のサンルームに出てから三回目のスカウトだったが、ここまで手の込んだアプローチをされたのは初めてだった……。


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