オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
109『衣装合わせ不幸せ』
うかつにも自分がアメリカ人であることを忘れていた!
それほど日本に馴染んでしまっていた! 女子高生の制服というのは、いかに女の子のリアル体形を隠していることか!
ホストファミリーの渡辺家のお婆ちゃんが、栗東の従兄弟さんちから取り寄せてくれた純白の単衣。
これは年代物のシルクの寝間着だそうで、上品な艶があって肌触りが良く、身にまとえば女の値打ちが2ランクは上がりそうな。
「ま、それでも単衣(裏地の付いていない着物)やから、下に、これ着てね」
お婆ちゃんは長じゅばんを出してくれる。
「着付けは……そうそう、幸子さんに、幸子さ~ん」
町会の寄合から帰って来た千代子のお母さん、お婆ちゃんからしたら嫁さんに声をかけた。
これは、お婆ちゃんの心配り。
千代子やお婆ちゃんに比べると接触の少ないお母さんに声をかけた。着付けというのは、自然なスキンシップになるので、なるべく家族みんなと関われるようにしようという気配りなんだ。
「はいはい、あたしに出来るかなあ~」
「これで練習して正月の晴れ着の着付けもできるように、勉強勉強🎵」
お父さんと健太と千代子はリビングに控えて見物に回る。
お婆ちゃんは、わたしの衣装合わせを渡辺家のイベントにしてしまった。
「よし、これでええやろ!」
お母さんの着付けにOKを出すと、お婆ちゃんは、わたしをリビングに急き立てた。
「「「おーーーーーー!」」」
お父さん、千代子、健太が同時に歓声を上げる。
「お人形さんみたい!」
そーでしょ!
「惚れ直したで!」
健太に惚れられてもね。
「マダムバタフライみたいや!」
え?
「ほんまや、バービー人形が着物着たらこんなんやろなあ!」
ちょっとそれわ……
「ボンキュボンは、なに着てもええな~」
「ちょ、ちょっと鏡ぃ!」
「はい、どうぞ」
お母さんが転がしてきてた姿見を見てビックリ!
着物というのは、ウエストのところで締め上げるために、制服とは真逆、意外に体の線が出てしまう。
それも、バストとヒップ!
バスト93ウエスト66ヒップ93 という、しばらく忘れていた3サイズが頭の上で点滅した。
アメリカ女性としては、ごく平均的な体形なんだけど、この衣装では、それがハッキリと出てしまう。
これでは『夕鶴』の肝である、あのセリフが言えない!
――ああ、こんなに痩せてしまって――
ぜったいギャグになってしまうじゃないの!!