大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

宇宙戦艦三笠・12[ステルスアンカー・2]

2019-09-26 06:48:34 | 小説6
宇宙戦艦三笠・12
[ステルスアンカー・2] 



 

 

 ステルスアンカーとは、巨大な銛(もり)のようなものだ。

 大きさは10メートルほどであろうか、テキサスの艦尾に食い込み、その端には丈夫な鎖が付いていて、鎖の端は虚空に溶けて見えないし、コスモレーダーにも映らない。テキサスは出力一杯にして振り切ろうとしたが、まるで弱った鯨が捕鯨船の銛にかかったように、艦尾を振り回すだけだった。
「修一くん、直ぐに助けてあげて。時間がたつほどあのアンカーは抜けなくなるから!」
 みかさんの声にこたえ、修一は樟葉とトシに命じた。
「テキサスの前方に出る。艦尾のワイヤーを全部使ってテキサスの艦首のキャプスタン(巻き上げ機)やボラート(固定金具)に結束!」
「了解、全ワイヤーをテキサスの艦首に固定!」
 三笠の艦尾から、ありったけのワイヤーが発射され、自動的にテキサスのキャプスタンや、ボラートに絡みついた。
「微速前進いっぱーい!」
「了解、微速前進いっぱーい!」
 トシが復唱し、エンジンテレグラムの針は、いっぱいに振れた。
「三笠は、見かけによらず出力は20万馬力です。必ず引っ張り出します!」

 引きこもりのトシが、こんなに真剣にやる気を見せるのは初めてだった。やがて、テキサスの艦体は軋みだし、軋みは、やがて苦悶の悲鳴に変わっていった。
「ジェーン、大丈夫か!?」
――大丈夫。テキサスは100年も生きてきた丈夫な子だから……!――
 テキサスの軋みは、やがて言葉になってきた。
――公民権運動……ヴェトナム戦争……奴隷制……マンハッタン計画……大統領暗殺……イラク戦争……民族差別……TPP……排出権取引……キューバ危機……南北戦争……イラン……中国……北朝鮮――

 アメリカにとって、過去の過ちや、暗礁に乗り上げている問題などが、次々と悲鳴になって出てくる。ステルスアンカーというのは、その船の所属する国が苦悶している過去と現在の問題を引きずるようにして、船の自由を奪うもののようだ。

――あ、ああー!!――

 ジェーンの声が悲鳴になったかと思うと、テキサスは艦尾1/4をアンカーに食いちぎられて、スクリューや舵を失って、やっとアンカーから離れた……海に浮かぶ船なら、もう沈没状態だ。
「ジェーン、大丈夫!? 大丈夫、ジェーン!?」

 しばらく、テキサスもジェーンも沈黙していた。もう船としては死んだかもしれない。

――こちらジェーン……なんとか生きてる。しばらく曳航してくれる? そいで、ちょっと……むちゃくちゃになったから、しばらく居候させてくれないかしら……――
「いいよ。なんたって、こっちは4人しかいないんだから大歓迎だよ!」
 やってきたジェーンはボロボロだった。髪はあちこち引きむしられたようになり、シャツもジーパンもかぎ裂きや、破れ目だらけになっていた。
「ジェーンを、中央ホールの神棚の下へ。わたしが看病するわ」
 へたりこんだジェーンをみかさんが助けようとすると、ジェーンは、キッパリとその手を払いのけた。
「あのステルスアンカーは、アメリカの矛盾を引き出し、拡大させて自縄自縛にし動けなくする。無理に引っ張ろうとすると艦体が引きちぎられる。このままじゃアメリカ艦隊は全滅する……電信室を貸して、今からワクチンを作る」
「わかった。その間に、テキサスの修復工事をやっておくわ」
「ありがとう、日本の技術なら安心だわ」

 ジェーンは、樟葉と美奈穂に助けられて電信室に向かった。その間にもジェーンの服は、さらにズタボロになっていき、ほとんど裸と変わらないかっこうになっていた。なんとも痛ましくはあるが、見上げた根性だと修一は思った。

「こら、なに見てんのよ。CICに行ってテキサスの復元工事の段取りよ!」
「あ、そんなヤラシイ意味で見てたわけじゃないから……」
「うそ、二人からはイヤラシオーラが出てるわよ!」
 神さまとは言え、女子高生のナリをされていると、つい口ごたえしてしまう。第一オレに関しては誤解だし。
「トシ、離れて歩け。オレが誤解される」
「そんな、オレのせいにしないでくださいよ!」
「どっちもどっちよ。さあ、CICに急ぐわよ!」

 とりあえずグリンヘルドの脅威からは離れた……ように感じられた。
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