大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

音に聞く高師浜のあだ波は・5『あたしがミナミに行かれへんかった理由・2』

2019-09-26 06:40:21 | ライトノベルベスト
音に聞く高師浜のあだ波は・5
『ミナミに行かれへんかった理由・2』
         高師浜駅


 

 美保、なんでミナミには行かへんかったん?

 自分が西田さんとこの新装開店に行ってこいと言うといて、お祖母ちゃんは聞いてきた。
「ちょっと調子悪かってん」
「え、調子悪い人が、あんなぎょうさん食べてこられるもんか?」
 家に帰ってから、お祖母ちゃんにスマホを見せて、西田さんのお店で食べたメニューを見せたのが間違い。
 歳の割には好奇心が強いお祖母ちゃんは、追及の手を緩めない。
「その……占いで北の方角は運勢悪うて。ミナミ行くのに北に向かういうのんが、そもそも矛盾やし」
「家からミナミ行こ思たら、いつでも北になるやんか」
 とうとう、あたしの向かいに座ってきよった。
「もう、なんやのん、お祖母ちゃん!?」
「かわいい孫のことは、なんでも知っておきたいやんか」
「あーー、それは口実で、またエッセーかなんかのネタにするんでしょ!」
 
 今日は、ちょっとだけ早起きしたんで、朝食にベーコンエッグを作ってる。半熟がいやなんで、焼けるのに時間がかかってる。それをええことにクソババアは孫をいたぶりだした。

「盲腸の手術と関係あるんとちゃうか?」
「ないない、経過は良好。もう笑うても痛まへんし」
 こういう答え方はあかんねん。嘘でも原因を言わんと、クソババアは納得せえへん。でも、急に嘘も思い浮かばへん。
「盲腸の手術いうのんは、毛ぇ剃るやろ」
「グ……」
 ええ歳をして、マッタイラ並のことを言いよる。
「それが、ちょっと伸びてきたとこでパンツに擦れるのが気色悪い? そやろ?」
「もー! ウソでも、そんなこと書かんといてよね!」
「ハハハ、大丈夫やて。分からんようにするさかい!」
 クソババアは、嬉しそうな顔をして回覧板をまわしに行きよった。

 お祖母ちゃんの本名は天生乙女(あもうおとめ)やねんけど、若いころから応円美里(おうえんみりー)いうペンネームで小説なんかを書いてる。本名は公開してないし、著者近影は眼鏡かけて髪形も変えてるんで、正体知ってる人はめったに居てない。で、それをええことに、ときどき身内のネタで書いたりするよってに始末が悪い。

 念入りの朝ごはんが裏目に出て、ムカついたまま家を出た。

 教室の前まで行くと、壁際の男子がヒソヒソと話をしてる。
 お祖母ちゃんと違て、人のヒソヒソ話に耳をダンボにするようなことはせーへんのやけど、お調子もんのマッタイラが凹んでるんで、つい聞き耳になってしまう。

 姫乃・あんた・キレとった・なんでや……なんてな単語が耳に入ってきた。

――なんかあったんか?
 席に着くと、すぐ後ろの姫乃にメールを打つ。こんな時に、コソコソ話すのはええことない。
――あとで話す 昼休みとかに
 その返事だけで、あたしは昼になるのを待った。

「ね、どー思う!?」

 姫乃が切り出したんは、昼食の後、デザートのブタまんをハフハフ食べながらの中庭のベンチ。
「腹立てても、ヒメノは美人やねえ」
 すみれが天然を思わせるのどかさで空気を和らげる。企んでいるわけとはちゃうねんけど、すみれには、こういうピュアな素直さがある。
「壁際男子に、なんか言われたん?」
 女同士やったら、あたしの問いかけはストレートになる。
「マッタイラがね、わたしのことを『あんた』呼ばわりするのよ!」
「「え、え?」」
 たしかに柳眉を逆立ててるヒメノはベッピンさんやと思た。
「だあからーー『あんた』って二人称、メッチャむかつくんですけど!」
 
 一瞬わからんようになってしもた。
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