大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ホリーウォー・22[ミッションパラサイト・1]

2021-08-01 06:27:56 | カントリーロード
リーォー・22
[ミッションパラサイト・1] 



 
「お腹は空いてないか?」

 春麗と雪麗の父は、大胆にも天安門広場にさしかかった車の中で言った。

 むろん暗号化した会話になっている。実際は「オレのこと分かったかい?」になる。以下ややこしいので、解読された会話表記にする。
 
 雪麗に擬態したキミは、学校に迎えに来た『父』を見て万事窮すだと思った。
 
『父』の呉潤沢は漢民主国情報部の腕利きで、要注意人物とPCにインプットされていた。何度かテレポしようとしたが、テレポ無効化のパルスを発せられるので、チャンスを逸したまま北京のど真ん中まで来てしまったのである。
 
「ヒナタのおかげで、なんとか復元できたぜ」
「え……ひょっとして……スグル!?」
「ああ、ヒナタがオレに関する記録や記憶を集めてくれたんで(第三回~第九回)なんとか九部通り復活できた」
「でも、その潤沢のなりは?」
「本物は日本で捕まっている。ユーリーは自己破壊したが、CPにメモリーの断片が残っていてな、それを三割がた復元したら、この潤沢のオッサンの情報が出てきて、博多ゲルで捕まえた。で、オレが潤沢に擬態して逆潜入したってわけ。本物の春麗と雪嶺も日本に呼び出して身柄を確保してある」
 
「うそ!」
 
「かわいそう」
 
 かわいそうと言ったのは雪嶺のキミである。かわいそうは言葉だけで、中身は「うまくやったわね!」になる。

 雪嶺も春麗も父は貿易商だと思っている。だから博多での身柄確保も外為法違反ということで、娘たちには真実を伝えていない。日本政府のやり方は、優しいとも狡猾とも言えた。とにかく、ヒナタとキミの危機に間に合ったのだから、スグルは大したガードと言えた。

「ただし勝負は、この一か月だ。キミがうまくテレポしてくれたんで、ヒナタの行方は分からない。つまり、中国大陸のどこに世界最強の自律型核融合兵器がいるか分からない。カードはこっちにあるというわけだ。この一か月、大陸のあちこちでヒナタのパルスを発信する。わざとらしくなく、圧縮したり偽装したりしながらな。でも、シンラも習もバカじゃない、一か月もすれば感づくだろう。それまで、やれるだけのことをやろう。まずは天安門広場で記念撮影でもしようか」

 三人は車を降りた。巡邏の武装警察も、仲のいい親子連れとしか思っていない。

「故宮の地下には、大陸最大のCICが作られつつある。大陸を統合したときの総司令部にするつもりだ。そう分からないように、わざと警備は緩くしてある。しかし、忍ぶれど色に出にけり……人の出入りや、監視カメラ、センサーの数や位置で、ある程度の……」
 
 スグルの潤沢が写メのアングルを決めている間に、異常なオーラを感じた。
 
 天安門広場前にさしかかった車が一台制御不能に陥っている。運転手はパニック寸前だ。
 
「あ、あの車!」
 
 一台のワンボックスカーが、急に方向を変えて、天安門の正面に向かい始めた。運転手は必死でハンドルを逆に戻し、ブレーキを踏もうとしているが、コントロールがまるで効かない。

「二人とも、ここを動くんじゃないぞ!」

 そう言うと、スグルは猛ダッシュで車に向かって駆け出した……。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« やくもあやかし物語・91『... | トップ | ライトノベルベスト[サンドイ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

カントリーロード」カテゴリの最新記事