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「ア……えと……みなさん驚かせてごめんなさい。美耶の妹の麻耶です。姉の都合が悪くなって来られなくなったので、代わりに来ました」
皆の驚きが大きかったので、麻耶はサッサと正体をばらして、着替えに行った。
「そうだ、美耶には歳の離れた妹さんがいたんだ……!」
美穂が驚いた表情のままため息をついた。
「お待たせしました、改めまして、白羽美耶の妹の麻耶です。皆さんの驚きの瞬間は撮らせていただきました。帰ったら姉に見せます」
なるほど、自分の服に着替えた麻耶は、どこから見ても大人だが、二十歳過ぎでも通りそうなくらい若かった。
「白羽ってことは、まだ独身なんだ」
「ええ、キンタローさんとあまり変わらない歳なんですけどね」
放送局で鍛えた人当たりの良さで、麻耶を帰りの車に乗せた。むろん放送局へ戻らなくてもいように、携帯がかかったふりをしておいた。その辺はアナウンス部を外された今でも如才ない。
「お姉さんは元気なの?」
話の接ぎ穂程度のつもりで聞いた。ところが、そのとたんに麻耶の元気が無くなった。
「……美耶、具合でも悪いのかい?」
「実は……先月亡くなったんです。交通事故で……今日の同窓会は楽しみにしていたんです」
「え…………そうだったのか……お線香の一本もあげさせてもらってもいいかな」
「ええ、姉もきっと喜びます!」
途中で花を買って白羽姉妹の家へと向かった。
「ああ……お店をやってたのか」
姉妹の家は、駅前通り一本奥の裏道に有った。
一等地とは言えなかったが、同じ通りに何軒か店があるところをみると、そこそこの立地条件のようだ。
「いい場所を選んだんだね」
「もともとここが家だったんです。父が残してくれたお金で改装したんです。お客さんも付いて、これからって時だったんですけどね」
元アナウンサーの癖で、つい家の中を見渡してしまう。
「厨房が喫茶店にしては……パン焼き窯まである」
「パンも焼いてたんです。喫茶店みたいですけど、サンドイッチの専門店なんです。長いこと帝都ホテルで修行して、去年やっとお店を出して……わたしが跡を継げればいいんですけど……」
なにか、そうできない事情がありそうだったが、立ち入ったことだ、麻耶が切り出さない限り聞かない方がいいだろう。
美耶の思い出話をしているうちに気づいた。いつの間にかアルコールが入っている。同窓会では最初の乾杯以外アルコールは手にしなかったが、これでは車に乗れない。
「ごめんなさい、車で来てらっしゃるのすっかり忘れて、うかつに出してしまいました」
「君が悪いんじゃない。つい雰囲気で飲んじまった僕がわるいんだ」
そう言いながらも、途方に暮れるオレだった……。
……つづく