勇者乙の天路歴程
020『角が引っ込んだ白兎』
※:勇者レベル4・一歩踏み出した勇者
「因幡の白兎って言えば、あの因幡の白兎なんだよね?」
「え……あ、そうです(”^▽^”)!」
シュポン
一瞬でとびきりの笑顔になったかと思うと、頭の角も引っ込んだ。
「え?」「ツノ?」
「え、あ、ちょっと最近疲れ気味でして、お恥ずかしながら耳の手入れが行き届きませんで二股に分かれてしまうことがあるんです。いえ、なに、すこしシャキッとしますと、このように元に戻りますんで。アハハ、お見苦しいものを見せてしまいました」
「で、課長代理さんなんですよね(^_^;)」
めずらしそうに首をかしげるビクニ。
「あ、そうです女勇者さん。いやあ、管理職の端くれなんですが、実際はカスタマーサービスといいますかネゴシエーターと申しましょうか……」
「学校で言えば教頭か首席と言ったところかな」
「アハハ、まあ、そんな的な、みたいな、っぽい感じでしょうか?」
「なんだか、わたしたちのことを待っていたような……」
「あ、夢にアメノミナカヌシさまがお出ましになりまして。あ、アメノミナカヌシと申しますと……」
「知っているよ、この世に最初に現れた神さまだ」
「うんうん、たしか姿はないんですよね。すぐにカミムスビとタカムスビの神さまと入れ替わりになる」
自分が居候している神さまなのでビクニも話が早い。
「そうですそうです。いやあ、近ごろではイザナギ・イザナミの神さまさえあやふやだって人もいますからね、ご奇特なことです。いや、そのアメノミナカヌシさまが『男女二人の勇者が現れて、そなたらの悩みを解決してくれるであろう』とお告げになったのです!」
「そなたら……というと、他にもお仲間がいるんですね!?」
長年タカムスビの神のところで引きこもっていた反動で、新しい者との出会いが嬉しいようなビクニ……いや、もう一つの顔は少佐だからなぁ、油断はならない、ブリッコかもしれない。
「はい、わたしのボスはヤガミヒメさまです」
「「おお!」」
予想はしていたが、実際にウサギからその名を聞くと胸がときめく。
むかしむかし、因幡の気多の岬にヤガミヒメという美しい女神が居て、そのヤガミヒメを口説いて妻にしようと、八十神(ヤソガミ)という80人の男の神さまたちが口説きに行った。
その途中でサメに皮を剥かれて泣いていたのが目の前の因幡の白兎。八十神たちは、でたらめな治療法を言って、白兎を死ぬような目に遭わせてからヤガミヒメにアタックして、全員がフラれてしまった。
そのあと兄たちの大荷物を持たされて、末の弟の大国主がやってきて、正しい治療法を教えてやる。すると白兎は元の姿に戻ることができて、ヤガミヒメも大国主の求婚を受け入れてメデタシメデタシの大団円。
つまり、白兎はヤガミヒメの使い魔みたいなもので、あらかじめ、男神たちの性根を調べるリトマス試験紙の役割を担っていた。
「それで、アメノミナカヌシさまは、お二人をボスのところにお連れするようにおっしゃっていたのです。勇者さま、ご案内しますので、ヤガミヒメさまにお会いになってください!」
「お、おお!」「はい!」
八十神? 大国主? どちらの扱いを受けるのか、まあ、兎の事をイジメてもいないし、神話のノリのままヤガミヒメに会うことになった。
☆彡 主な登場人物
- 中村 一郎 71歳の老教師 天路歴程の勇者
- 高御産巣日神 タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
- 八百比丘尼 タカムスビノカミに身を寄せている半妖
- 原田 光子 中村の教え子で、定年前の校長
- 末吉 大輔 二代目学食のオヤジ
- 静岡 あやね なんとか仮進級した女生徒
- 因幡の白兎課長代理 あやしいウサギ