大橋むつおのブログ

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魔法少女マヂカ・182『メイド長のエクボ』

2020-10-31 14:24:32 | 小説

魔法少女マヂカ・182

『メイド長のエクボ』語り手:春日メイド長    

 

 

 あら、旅順開城以来!

 思わず呟いてしまいました。

 田中執事長が鼻歌を口ずさんでいたのです。

 

 過ぐる日露の戦役では、現当主の尚孝さまは士官学校を繰り上げ卒業されて少尉に御任官され、我々使用人は尚孝さまが旅順以外の任地に征かれますようにとお祈りばかりしておりました。

 軍団長の乃木将軍は、ご子息お二人とも旅順の戦いで亡くされ、乃木家は嫡流の跡継ぎの男子が居られなくなられました。

 高坂家は尚孝さまの他はお姫さまばかり。尚孝さまに万一のことがありましたら、五代遡った御分家様がお継ぎになられます。御分家様は、とかく噂の多きお方で、口には出さずとも、ずいぶん心配したものでございます。

 それが旅順の開城で尚孝さまの御生還への道が大きく開けたのですから、まだ若い執事であった田中執事長が思わず鼻歌を口ずさむのもむべなきことでございました。

「おや、そういうメイド長も方頬にエクボが出ておりますぞ(^▽^)/」

「え、エクボだなんて、これは歳相応のほうれい線ですよ!」

「あはは、お互い嬉しい時には出てしまうものだね」

「ほ、ほんとうに……」

 あとは二人で泣き笑いになってしまいました。

 

 今日は、霧子様が〇カ月ぶりにご登校遊ばされるのです。

 

 正直なところ、西郷家からお遣わされた二人が、こんなに早く結果を出してくれるとは思っても居ませんでした。

 朝の御挨拶(という名目でお起こしに参るのです)に伺おうと、霧子様のお部屋に通じる廊下に差し掛かりますと、すでに霧子様は制服に御着替えになられて西郷家のお二人を従えておられたのです。

「春日、今まで心配をかけました。今日より霧子は西郷家の二人といっしょに学校に通います。よろしく用意をして下さい。わたしは御仏間でご先祖様にご報告申し上げてからダイニングに向かいます。二人を案内しておいてちょうだい」

「え、あ、はい、承知いたしました」

 駆け出しのメイドのようなご返事をしてしまいました。

「あら、春日ってエクボが出るのね」

「お、おからかいにならないでくださいませ。こ、これはほうれい線でございます(;^_^A」

「おお、霧子様もエクボに気付かれたのですか。いやいや、君臣相和し、目出度いことです」

「ですから、ほうれい……あ、お出ましになられます」

 

 高坂家の御玄関は東に向かって開いており、ちょうど車寄せにお出ましになった時に朝日がスポットライトのように差すようになっております。アプローチにお立ちになった霧子様は、そのスポットライトに照らされ、舞台の真中(まなか)にお立ちになったように輝いておられます。

「では、これより学校に向かいます。見送りご苦労でした」

「行ってらっしゃいませ!」

 他の使用人たちと共にご挨拶申し上げます。

 運転手の松本がパッカードのドアを開け、西郷家のお二人を従えて後部座席に収まられます。

 おそらくは西郷家の真智香さまのお力なのでしょうが、当の真智香さまは何事もなかったように、典子さま霧子お嬢様に続いてお乗りになられます。

 お三方をお乗せしたパッカードは、ゆるりと車寄せを周ってご門を出て行きました。

 お見送りを終わって朝のお掃除。

「さあ、みなさん、朝のお仕事、キリキリと働きましょう!」

 ふと御玄関の鏡に映った自分の姿に目が停まります。

 いっしょに映り込んだメイドたちと鏡の中で目が合い、我知らず狼狽えてしまいます。

 どうやら、わたしの頬を見ております。

「こ、これは……エクボです。文句ありますか!?」

 メイドたちは、笑いをこらえてフルフルと首を振って、まあ、たまにはこんな朝もいいでしょう。

 

 

 


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