大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・009『宮田博子』

2023-02-24 11:06:59 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

009『宮田博子』   

 

 

 ジャンボジェットの子だ!

 

 ほら、合格者説明会が終わって帰ろうとしたら、空見上げててぶつかってきた子。

「どこの航空会社のなんですか?」

「え、ああ……家にあったの持ってきただけでぇ」

「ロゴとか……無いのは、きっと特別製なんですねえ、聞いたことあります。ベテランのスチュワーデスは特注のキャリー持ってるって! へーー、いいなあ、カッコいいなあ」

「アハハ(^_^;)」

「え、ひょっとして椅子になるんじゃないですかあ!?」

「え、椅子?」

「ちょと、失礼……ここを、こうやって……」

 カチャカチャ

「ほら!」

「あ、ああ……」

 これは究極のババキャリーだ……ほら、くたびれたお婆ちゃんが、公園とかでキャリーを椅子にして寛いでる。若者は絶対持ち歩かない奴だよ(-_-;)。

「スゴイです! 特注中のトクチュ……テ、舌噛んでしまいました(;'∀')」

「あはは」

 こないだのジャンボジェットほどじゃないけど、チラ見していく人が結構いる。半分は、この飛行機オタクっ子のせいだけどね。

 見渡すと、キャリーを持ってきているのはわたし一人……どうやら1970年、キャリーバッグを使っているのはスチュワーデスぐらいみたいだ。

「あ、わたし宮田博子っていいます。よかったら、いっしょに周りませんか?」

「え、あ、そうね」

 と、成り行きと勢いで、いろいろの受け渡しをいっしょに周ることになった。

「あたし、時司巡。よろしくね」

 わたしにも常識はある。相手が名乗ったなら、こっちも名乗らなくちゃね。

「トキツカサ?」

「あ、時間の時に、司会の司と書いて時司。めぐりは巡査の巡」

「時間の時に司会の司……」

 手のひらに指で書いて憶えてる、なんか可愛い。

 そう言えば、この子の身長はわたしの鼻の頭くらい。陽気で押し出しが強いせいか、小柄なのに気付かなかった。

「テヘ、物覚え悪いんで」

 おお、テヘペロ! リアルで見るのは初めてかも!

「ううん、いい記憶法だと思うよ」

「お祖父ちゃんに教わったんです」

「そうなんだ。あたしのキャリーもお祖母ちゃんに『持ってけ』って言われて、あ、スチュワーデスとかじゃないんだけどね」

「え、そうなんだ。年寄の言うことって、含蓄ありますよねえ。あ、まあ半分くらいは」

「うん、そうかもね。あ、教科書が早いみたい!」

 校舎の入り口で係りの先生が―― 教科書空いてまーす ――と言ってくれてる。

 教科書は選択授業によって変わるので要注意。

 宮田さんと注意し合って列に並ぶ。

「あ、芸術は同じですね」

「宮田さんも美術なんだ」

「副読本多いですねえ(^_^;)」

「うん、ちょっと多すぎかも」

 地理の地図帳、白地図帳、英語の辞書二冊(英和辞典 和英辞典)、高等英文解釈、国語便覧……

『教科書、副読本は一覧表を基に確認して下さ~い。空き教室を用意していますのでご活用くださ~い』

 不足や間違いがあると、販売店まで行かなければならないらしいので、みんな真剣に確認。

 先に制服の受け渡しをやった子たちは、制服の箱が邪魔そう。

「オッケーです、制服いきましょう!」

 制服は本館前の植え込み前。ゼミ机で結界を張り新入生全員分の制服の箱が積んである。

 フフフ

 やっと憧れの制服だ。

 これのために、わざわざ五十年先の令和から越境入学したんだ。思わず笑みがこぼれる。

「やっぱ、制服はスーツですよね!」

 宮田さんも同類みたいだ。

「靴もね、ローファーを買ってもらったんです。高校の制服って、最後は足もとで締めなくっちゃいけませんからねえ」

「あ、わかる~、中学まではスニーカーでしょ、スニーカーって子どもっぽくって」

「スニーカー?」

「え、あ、これ」

 足元を示すと、また目を見開く宮田さん(^_^;)

「おお……さりげなくもイカシた運動靴ですねえ! 靴底の厚さといい、くるぶしあたりの肉の厚さといい、言われて見なければ分からないさりげなさですけど、自己主張してますねえ……そうか、スニーカーってメーカーなんですねえ」

 スカートの膝のところでスニーカーってなぞってるし(^o^;)

「あ、そういうわけじゃあ……あ、体操服!」

 流れに沿って体操服の場所に移動。

「ゲ、ブルマ!?」

 受け取ってビックリ。

 男子はジャージの上下に丸首の体操服だけど、女子のは体操服の下はブルマだよ( ゚Д゚)。

「仕方ないですねえ、昔から女子はブルマですからあ」

 ぬかっていたあ……まあ、時代なんだ。みんなで穿けば怖くない。

 

 人ごみを抜けて、あとは帰るだけ。これも縁だから宮田さんに声をかける。

 

「じゃ、そこまでいっしょに帰ろうか?」

「あ、わたし、もう一つ寄るところあるから」

「え、なにか忘れてたかな!?」

「あ、あそこのね……」

 宮田さんが指差した先には『奨学金申し込⇒』の張り紙。

「え、あ、そか」

「あ、じゃあね、バイバイですぅ」

「う、うん」

「入学式楽しみですねえ、同じクラスになれたらいいですね!」

 健気に手を振って校舎の中に入っていく宮田さん。

 微妙におたついたけど、ほんと、同じクラスになれたらと思った。

 

 校門を出て仰いだ空、ジャンボジェットが飛んでいく。

 見上げる人は、もういなかった。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 宮田博子

 

 


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