大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ホリーウォー・6[スグルのメモリーを集める・4]

2021-07-16 06:21:36 | 自己紹介

リーォー・6
[スグルのメモリーを集める・4]  




 子供でも容赦しない。

 絵里のパルス弾は、三人の子供の胸を打ち抜いた。子供たちは糸の切れたマリオネットのように、妙な具合に体をくねらせて倒れている。

 敵のアンドロイドの特徴である。

 思いもかけぬ方向に関節が曲がり、曲芸のような身のこなしで襲ってくる。カーボン繊維の骨格をしているので、体重も人間の半分ほどでしかなく、跳躍力や運動性能に優れている。

 この外見と運動性能はハワイ事件で経験済みだが、事件後の散発的な戦闘では、これに面食らった日本の戦闘員が数十人やられている。

 日本は、これに対しパルスガ銃での集中攻撃で対応したが、これでは敵をまるまる粉砕してしまい、破壊したアンドロイドからはなんのデータも回収することができなかった。

 そこで、絵里は破壊力では劣る一世代前のパルスガンを使った。

 技研の庄内に頼んで貫徹力だけを強くしてもらったもので、距離1000で、100ミリの鋼板に3ミリの穴を開ける。絵里は、この改造パルスガンを部下にも持たせ、胡同(フートン)と呼ばれる浙江省にあるシンラの拠点に奇襲をかけたのである。

「……お願い、助けて」

 小さな声が聞こえた。

 部下の一人が狙いを外し、ムーブメントを破壊し損ねたのである。

 部下は一瞬躊躇した。人間そっくり、それも幼い女の子の外形をし、涙を流しながら哀願するのである。人の心を残したサイボーグなら躊躇も無理はない。

「どけ!」

 絵里は、そう叫ぶと、パルスガンを連射した。

 ズボボボボボ!

「チ、電脳をぶち抜いてしまった。こいつの足をよく見て反省しろ」

 そのアンドロイドは、右足を信じられない角度で曲げて、指にレーザーナイフを構えていた。

「あたしが撃たなかったら、おまえ電脳とエネルギーコアの中継を切られてたとこだぞ」

「すみませんでした」

「優しさは捨てろ。この胡同の外郭にいるのは、100%アンドロイドだ。機械を壊すのに躊躇はいらない」

「隊長、こいつらの電脳情報で外郭の構造は、ほぼ分かりました。全員に送ります」

「送れ……一部クリアーじゃないな。内郭への進入路が三つもある。二つはブラフだぞ」

「どうも、こいつがキーロイドだったようですね」

 部下は、絵里が完全に破壊したアンドロイドの頭を蹴飛ばした。

「二つ目が正解だと思うぜ」

 そう言いながら、スグルの分隊が入ってきた。

「どうして二つ目?」

「経験と勘。うちの分隊でやる、時間かけてたらどんなブラフかけられっか分からんからな。じゃ、行くぞ!」

 それだけ言うと、なんの躊躇もなくスグルの分隊は胡同の奥に進んでいった。

 正解だったことは直ぐに分かった。情報を部隊全体リアルタイムで共有しているからだ。

「内殻は敵の数も多い。若干だが人間もわずかに混じっている。怪我をさせても殺すんじゃないぞ!」

 内郭は、四つのブロックとコアとに分かれていた。スグルたちの戦闘状況がリアルに共有された。スグルのアドレナリンが少し高めなのが気になったが。

 サブの本体が着くまでに四つのブロックは制圧。残すはコアだけとなった。
 
 四つのブロックのアンドロイドからコアの情報を得ようとしたが、ブラックボックスのように情報がなかった。さすがの絵里も躊躇した。

「側面二か所に穴を開ける。その間にデータを洗い直し正面ゲートを開錠、先に開いたところから突入。アンドロイドはムーブメントを狙え。ただし、身の危険を感じたら破壊もやむなし。かかれ!」

 5分で、側壁一か所と正面ゲートを開けた。

 同時に、絵里とスグル、そしてサブの本体がなだれ込む。

 三十秒で、5人の人間を確保、82体のアンドロイドのムーブメントを止め、6体を破壊した。

「や、止めてくれ! あんたたちが破壊した中には人間も混じっているんだぞ! そこの少佐(スグル三佐)この娘は身重だ、手を出すな。怪我をしている、助けてやってくれ!」

 司祭のようなナリをしたリーダーが、腹の大きな娘をかばって言った。

「絵里、助けてやれ」

 一番近くにいた絵里の部下が二人、娘と、リーダーを助けにいった。

「安心して、人間には危害を加えないから……」

 絵里の部下が手を差し伸べた時、スグルは気づいた。

「どけ、トラップだ!」

 スグルとサブが同時に飛び込んで、絵里の部下二人とリーダーを助けた。

 スグルはアンドロイドだが、サブは生身の人間である。退避に0・2秒余計にかかった。

 娘は、人間の生体反応を極限までコピーした人型爆弾だった。スグルも爆弾が起動するまで気づかないほど精巧にできていた。

 ……サブは、この事故で両足を失ってしまった。

 絵里は、訓練の合間に、かいつまんで話してくれただけだ。しかし、ハワイとここの作戦二回立ち会っていたので十分伝わった。

 ヒナタは、いまだに義体化しないサブの頑固さとスグルの怒りを理解した……。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 銀河太平記・055『火星を... | トップ | ライトノベルベスト〔死にぞ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

自己紹介」カテゴリの最新記事