子供でも容赦しない。
絵里のパルス弾は、三人の子供の胸を打ち抜いた。子供たちは糸の切れたマリオネットのように、妙な具合に体をくねらせて倒れている。
敵のアンドロイドの特徴である。
思いもかけぬ方向に関節が曲がり、曲芸のような身のこなしで襲ってくる。カーボン繊維の骨格をしているので、体重も人間の半分ほどでしかなく、跳躍力や運動性能に優れている。
この外見と運動性能はハワイ事件で経験済みだが、事件後の散発的な戦闘では、これに面食らった日本の戦闘員が数十人やられている。
日本は、これに対しパルスガ銃での集中攻撃で対応したが、これでは敵をまるまる粉砕してしまい、破壊したアンドロイドからはなんのデータも回収することができなかった。
そこで、絵里は破壊力では劣る一世代前のパルスガンを使った。
技研の庄内に頼んで貫徹力だけを強くしてもらったもので、距離1000で、100ミリの鋼板に3ミリの穴を開ける。絵里は、この改造パルスガンを部下にも持たせ、胡同(フートン)と呼ばれる浙江省にあるシンラの拠点に奇襲をかけたのである。
「……お願い、助けて」
小さな声が聞こえた。
部下の一人が狙いを外し、ムーブメントを破壊し損ねたのである。
部下は一瞬躊躇した。人間そっくり、それも幼い女の子の外形をし、涙を流しながら哀願するのである。人の心を残したサイボーグなら躊躇も無理はない。
「どけ!」
絵里は、そう叫ぶと、パルスガンを連射した。
ズボボボボボ!
「チ、電脳をぶち抜いてしまった。こいつの足をよく見て反省しろ」
そのアンドロイドは、右足を信じられない角度で曲げて、指にレーザーナイフを構えていた。
「あたしが撃たなかったら、おまえ電脳とエネルギーコアの中継を切られてたとこだぞ」
「すみませんでした」
「優しさは捨てろ。この胡同の外郭にいるのは、100%アンドロイドだ。機械を壊すのに躊躇はいらない」
「隊長、こいつらの電脳情報で外郭の構造は、ほぼ分かりました。全員に送ります」
「送れ……一部クリアーじゃないな。内郭への進入路が三つもある。二つはブラフだぞ」
「どうも、こいつがキーロイドだったようですね」
部下は、絵里が完全に破壊したアンドロイドの頭を蹴飛ばした。
「二つ目が正解だと思うぜ」
そう言いながら、スグルの分隊が入ってきた。
「どうして二つ目?」
「経験と勘。うちの分隊でやる、時間かけてたらどんなブラフかけられっか分からんからな。じゃ、行くぞ!」
それだけ言うと、なんの躊躇もなくスグルの分隊は胡同の奥に進んでいった。
正解だったことは直ぐに分かった。情報を部隊全体リアルタイムで共有しているからだ。
「内殻は敵の数も多い。若干だが人間もわずかに混じっている。怪我をさせても殺すんじゃないぞ!」
内郭は、四つのブロックとコアとに分かれていた。スグルたちの戦闘状況がリアルに共有された。スグルのアドレナリンが少し高めなのが気になったが。
サブの本体が着くまでに四つのブロックは制圧。残すはコアだけとなった。
四つのブロックのアンドロイドからコアの情報を得ようとしたが、ブラックボックスのように情報がなかった。さすがの絵里も躊躇した。
「側面二か所に穴を開ける。その間にデータを洗い直し正面ゲートを開錠、先に開いたところから突入。アンドロイドはムーブメントを狙え。ただし、身の危険を感じたら破壊もやむなし。かかれ!」
5分で、側壁一か所と正面ゲートを開けた。
同時に、絵里とスグル、そしてサブの本体がなだれ込む。
三十秒で、5人の人間を確保、82体のアンドロイドのムーブメントを止め、6体を破壊した。
「や、止めてくれ! あんたたちが破壊した中には人間も混じっているんだぞ! そこの少佐(スグル三佐)この娘は身重だ、手を出すな。怪我をしている、助けてやってくれ!」
司祭のようなナリをしたリーダーが、腹の大きな娘をかばって言った。
「絵里、助けてやれ」
一番近くにいた絵里の部下が二人、娘と、リーダーを助けにいった。
「安心して、人間には危害を加えないから……」
絵里の部下が手を差し伸べた時、スグルは気づいた。
「どけ、トラップだ!」
スグルとサブが同時に飛び込んで、絵里の部下二人とリーダーを助けた。
スグルはアンドロイドだが、サブは生身の人間である。退避に0・2秒余計にかかった。
娘は、人間の生体反応を極限までコピーした人型爆弾だった。スグルも爆弾が起動するまで気づかないほど精巧にできていた。
……サブは、この事故で両足を失ってしまった。
絵里は、訓練の合間に、かいつまんで話してくれただけだ。しかし、ハワイとここの作戦二回立ち会っていたので十分伝わった。
ヒナタは、いまだに義体化しないサブの頑固さとスグルの怒りを理解した……。