やくもあやかし物語 2
お別れの言葉も言えずに消えて行ったネルに、少しの間呆然としてしまう。
分かってはいたけど、ワタワタして、そして寂しくなって。それでも、キーストーンを取り返す旅は続けなくちゃならない。
よし!
気合いを入れ直して、少しでも進んでおくことにする。
う……(;'○')
一歩ふみだそうとしたら、縁起の悪いことに靴ひもが切れてしまった。
いっしゅん、ほんのいっしゅんだけど、靴ひもが切れたのを言いわけにして、こんな旅は止めてしまおうかと思ったよ。
一面の野原の異世界。
この異世界にいる普通の人間は自分一人だけなんだと思うと、無性に心細い。
魔法特性が高いから、このキーストーン奪還の役目を仰せつかったんだけど。高いのは魔法特性だけで、それ以外は他の仲間と変わらないよ。歩いたらくたびれるし、お腹はへるし、眠くもなるし、汗もかくからお風呂にもはいりたいし、ときどきは「だいじょうぶ?」とか聞かれて「うん、だいじょうぶ(^_^;)」とか言ってみたいよ。
こういう時、いつも憎まれ口を言う御息所は、くたびれたのか、ポケットで寝てるし。
でも、仕方がない!
ペシペシ
ほっぺたを叩いて靴ひもを調べる……半分までならいけそう。
靴の穴の下半分のところで靴ひもを結び直す。
…………これ、結び直して立ち上がったら、ぜったいクラっとくるよ。
用心してひもを結ぶ……やっと結び終えると、クラっときた!
え、まだ立ち上がってないのに?
と思ったら、目の前にハンター・ヤングとオリビア・トンプソンが現れた。
クラっときたのは、二人の出現でいっしゅん空間がひずんだからなんだ。
ハンターは脚を広げて尻餅をついているけど、オリビアはヘタりながらも、ちゃんとスカートの前を押えている。
オリビアは良家の子女だから、こういうとっさの状況でもつつしみ深いんだ!
「あ、やっぱり二人で来られたわ。あ、こんにちはヤクモ」
「ごくろうさま! ネルが急に戻っちゃって、覚悟してたところだったから、嬉しいよ(#^▽^#)!」
なんだか泣きそうになった。
「荷物多いし、女子を一人で行かせるのは心配だし、ダメもとで変換魔法を使ったんだ」
変換魔法……そうだ、節分で豆まきするのに散らからないように、豆にかけた魔法だ(028『ソミア先生の変換魔法と豆まき』)。
「ほら、三日分の水と食料、他に小物いろいろ。それに、これだ」
「あ、それは!」
「聴講生の詩(ことは)さんが、これがあったら役に立つはずって、やくもの部屋から持ってきたんだ」
「あ」
それは御息所用のお風呂だ。
日本に居た時に、里見さんとこの八房がお礼にくれた(やくもあやかし物語128『八房のお礼』)やつ。ほんとはお酒の燗風呂なんだけど、魔法の燗風呂で、わたしでも使える。
「ほら、渡しとくよ……」
荷物を差し出したところで、ハンターの体が消え始めた。
「あ、変換魔法かかってたからなあ……ごめん、やくも……」
そうだ、変換魔法は節分の豆が散らからないよう、時間が経てば消えるように設定された魔法なんだった!
ということは……?
「だいじょうぶ、消えたら元の世界に戻るだけだってソミア先生が言ってたわ」
「そ、そうなんだ」
女子ふたりで、ちょっと心細い……とは言わなかったよ(^_^;)。
☆彡主な登場人物
- やくも 斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
- ネル コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
- ヨリコ王女 ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
- ソフィー ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
- メグ・キャリバーン 教頭先生
- カーナボン卿 校長先生
- 酒井 詩 コトハ 聴講生
- 同級生たち アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
- 先生たち マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
- あやかしたち デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女