魔法少女マヂカ・213
数が多い! 多すぎる!
中華街から桜木町駅にかけての上空には雲の上から黒コショウをまき散らしたように妖たちが集まり始めていた。
実体化している者は、前衛のわずかな者たちで、デテールを明らかにしつつ地上に降下している。
降下し終えた者は、仏蘭西波止場からは死角になるビルや倉庫の陰を目指しているようで、波止場前の大通りに達している者はいない。
ザザ!
反射的に地面を蹴って、ブリンダと距離をとる。
敵は、仏蘭西波止場に通じる十数本の道路から同時に現れるのに違いなく、それをたった二人で迎え撃つには、固まっていては、取りこぼしが出てしまう。
万全とは言えないが、横に広がって、できるだけ多くの妖どもを消滅させなければならない。
波止場にたどり着かせては、上陸してくる妖たちと合体してしまって、手が付けられなくなってしまう。
「さすがは歴戦の魔法少女、たった二人とは言え、適切な対応、まるで奉天包囲戦の秋山将軍を見るようだよ。存分に戦ってくれたまえ。存分に力を発揮し、彼我の力と志しを感得して……霧子の味方になってくれたまえ」
新畑の広げた手の間には、先ほどよりも輝きを増した霧子のソウルが、今まさに飛び出さんと振動し始めている。
「「来る!」」
同時に叫んだ時には、取るべき二人の行動は変更されている。
波止場に押し寄せてくる妖をブリンダが、わたしは上空に蟠っている未成体を攻撃する。
二年余りの付き合いで、ブリンダとは言葉で確認しなくても臨機応変の対応ができるようになっているのだ。
「ほう」
新畑も感心したようだが、ソウル錬成の手を停めるところまでは行っていない。
スプラッシュアロー!
術式を唱えると同時に風切丸を弓にして矢を放つ。
放った矢は放物線の頂点で十本あまりに分裂して降下し、敵の直上でさらに分裂、最終的には幾百の矢になってクリーチャーどもを消滅させた。
カンザストルネード!
ブリンダは、横っ飛びになって、ほとんど地面と平行に走りながら術式を唱える。
本来は縦方向に働く風属性の魔法を横方向に広げ、波止場前に湧きだしてきた敵を吹き飛ばした。
出鼻はくじいた。
次は、視界に飛び込んでくるクリーチャー、妖、それらの未成体の各個撃破に移る。
「ウィンドブレイク三号! マジカビーム! マジカアターック! マジカパーーンチ! マジカキーーック! マジカブレイクッ!」
敵の数が多いので、今では恥ずかしくなるような、もう何十年も使っていない技まで総動員して戦う。
「かわいいぞ」
すれ違いざまにブリンダが冷やかす。
「くっ……」
ブリンダも、古い個人戦闘用のスキルを発動させているのだけど、いちいち術式を唱えることはしない。
ちょっと悔しい。
五分もすると、わたしも詠唱しなくても技を発動できるようになる。
というか、詠唱していては間に合わなくなるほどの敵の数なのだ。
取りこぼしたクリーチャーの中には、上陸した外来の妖と合体を成し遂げる者も現れてきた。
合体した妖は、侵入してくる妖たちとすれ違うようにして横浜の街に浸透していく。
「くそ、間に合わないか!?」
そう観念しかけた時。
ズボボボボボ!!
掃除機を逆噴射させたような衝撃音がして、浸透しかけた妖たちが吹き飛ばされてきた。
「なんだ、これは!?」
余裕だった新畑の手が止まった。
※ 主な登場人物
- 渡辺真智香(マヂカ) 魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 要海友里(ユリ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 藤本清美(キヨミ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 野々村典子(ノンコ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 安倍晴美 日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
- 来栖種次 陸上自衛隊特務師団司令
- 渡辺綾香(ケルベロス) 魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
- ブリンダ・マクギャバン 魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
- ガーゴイル ブリンダの使い魔
※ この章の登場人物
- 高坂霧子 原宿にある高坂侯爵家の娘
- 春日 高坂家のメイド長
- 田中 高坂家の執事長
- 虎沢クマ 霧子お付きのメイド
- 松本 高坂家の運転手
- 新畑 インバネスの男