大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・117『父上、やくもさまをお連れいたしました』

2022-01-01 12:47:48 | ライトノベルセレクト

やく物語・117

『父上、やくもさまをお連れいたしました』 

 

 

 厳めしい城門を幾つも通って御殿の前に着いた。一ダースほどのメイドさんたちがお出迎え。

「「「「「「「「「「「「いらっしゃいませ」」」」」」」」」」」」

 揃ってお辞儀されると、ちょっと緊張。

 カチャリ

 ラムメイドさんがドアを開けてくれて、滝夜叉姫さんに先導されて馬車を降りる。

 パチン

 レムメイドさんが指を鳴らすと馬車はサッカーボールになってしまい、レムメイドさんが――どうぞ――という感じで、滝夜叉姫を促す。

 セイ!

 バシュ!

 滝夜叉姫さんがシュートして、サッカーボールは城壁の向こうに飛んで行ってしまった!

「「「「「「「「「「「「おお!」」」」」」」」」」」」

 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ

 メイドさんたちがポーカーフェイスのまま拍手。

 馬車がサッカーボールになったのも、滝夜叉姫がきれいにシュートを決めたのも、それに、シュートした時に露わになった滝夜叉姫の脚の美しさにも、メイドさんのシュールな拍手にもビックリした!

「すごい……」

「次はテニスボールぐらいにしといてね、サッカーボールでは、ちょっとお下品です。他の人たちもよろしく」

「「「「「「「「「「「「御意」」」」」」」」」」」」

「その『引用符』の無駄遣いも煩わしいわ」

「『引用符』は勤務評定に影響するのでご寛恕願います」

 ラムメイドが言うと、滝夜叉姫のこめかみがピクリと動いたような気がしたけど、姫は「あ、そ」と小さく返事した。

 メイドさんはラム・レムメイドの二人が先導して、御殿の中に進む。一ダースのメイドさんたちは慇懃に頭を下げて見送ってくれるだけ。たしかに、ちょっと無駄かもね。

 

 御殿は大きな温泉旅館のよう。

 

 唐破風の玄関を入ると長い廊下が続いていて、クネクネ曲がって、観音開きの扉の前に立つ。

「滝夜叉姫さま、お客人をお連れになられましたーー」

 ラムメイドさんが言うと――待ってました――という感じで扉が開く。

 扉の向こうは、さらに廊下が続いているんだけど、ここまでの廊下と違って赤絨毯が敷かれていて、別のメイドさんたちが待機している。

 ラムレムメイドさんは、どうやら、ここまでみたい。さらに奥に進むわたしたちに、ずっと頭を下げて見送ってくれる。

「ここからは奥なんですが、特に畏まることはありません。お楽になさってください」

 そして、何回か角を曲がって、白木に金の金物を打った扉の前にやってきた。

 

「ちょっと待って」

 

 声は、わたしのポケットから。

 大人しいので忘れてたんだけど、御息所が顔を出している。

「ちょっと出してくれる、この姿で会うのは失礼だから」

「あ、そうなの?」

 滝夜叉姫もニコニコ頷くので、ポケットから出して赤じゅうたんの上に置いてやる。

 エイ

 掛け声をかけてでんぐり返ったかと思うと、わたしよりも背の高いセーラー服姿になった。

「あれ?」

 御息所の依り代はあやせのフィギュアだから、てっきり等身大のあやせになるのかと思った。

「さすがは六条御息所さま、聞きしに勝るお美しさです」

「いいえ……でも、将門さまにお会いするのに仮の姿では失礼ですから……では、宜しければお目もじを」

「承知いたしました……それ」

 滝夜叉姫が小さく掛け声をかけると、御付きのメイドさん、パッと光ったかと思うと、鍵穴に収まる。

 カチャリ

 なんと、メイドさんは鍵の化身だったんだ!

 スーーー

 音もなく扉が開く……。

「滝夜叉姫さまー、お客さまー、ごとーーちゃーーく!」

 入ったところのメイドさんが、さらに奥に知らせたかと思うと、それは、鍵穴に入って行ったメイドさん?

 と思ったら、さらに奥、白木のベッドの左右の枕もとには二人のメイドさんが居て、同じ顔をしている。

「父上、やくもさまをお連れいたしました」

「ご、ご苦労であった……」

 左右のメイドさんに解除されて起き上がったのは――え、これが将門さま?――目を疑うような、やせ細ったお爺ちゃんだ。

「は、初めてお目にかかる……わたしが、た、平将門……でござる」

 だけど、目だけはランランとしている。

 ほら、黒澤明の『乱』のお父さんの殿様。息子たちに裏切られてやせ細った、あの感じ。

 数々の妖たちに出会う前のわたしなら、ぜったい気絶してると確信が持てるほどの迫力だよ……(;'∀')

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝

 

 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 明神男坂のぼりたい・28〔... | トップ | せやさかい・269『まだ除... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

ライトノベルセレクト」カテゴリの最新記事