大橋むつおのブログ

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・84『稽古は暗礁に乗り上げていた』

2023-01-14 07:29:35 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

84『稽古は暗礁に乗り上げていた』 

 


「……さん」

 わたしたちには語尾しか聞こえなかったけど、マリ先生には全部聞こえたみたい。

「だれ……関根さんて?」

「あ……それは」

 マリ先生に聞かれてとぼけるのはむつかしい。潤香先輩も例外じゃない。

「……姉の元カレです。夢の中に出てきた人が……顔は見えないけど、そんな感じだったんです。わたしにも実の妹のように接してくださって……姉には内緒にしておいてください。姉には、大きなトラウマなんです」

「分かったわ……そういうことだったんだ」

「え……」

 潤香先輩をシカトして、先生は命じた。

「いまのことは口外無用。潤香も含めて……いいわね」

 はい……

 四人が声をそろえて返事をした。


 稽古は暗礁に乗り上げていた(-_-;)。


 最初の口上もそうだけど、歌舞伎や狂言的な表現には苦労ばっか。

 無対象の演技も、縄跳びなんかのレベルじゃない。見えないちゃぶ台に見えない食器、それも見えないお盆に載せて運ばなきゃならない。

 バケツに水を入れるのも一苦労。空と水が入ってるんじゃ重さが違う。

 ちゃぶ台を拭くのも、また一苦労。雑巾を水平に拭くのってムズイ!

 お茶を飲んだら、里沙と夏鈴はともかく乃木坂さんにまで笑われてしまう。

―― それじゃ、お茶を被っちゃうよ ――

「だって、ムツカシイんだもん!」

「まどか、誰に言ってんのよ?」

「え、あ……自分に言ってんの。自分に」

「ヒスおこしたって、前に進まないよ」

 そりゃあ、幽霊役の夏鈴はお気楽よね。壁でもなんでも素通りだし、この幽霊のノブちゃんだけ無対象の演技が無いのよ。


 で、稽古場の奥じゃ本物の幽霊さんがお腹抱えて笑ってるしい~(プンプン!)


 乃木坂さんは、ときどき上手に見本を見せてくれる。無対象でお茶を飲んだり、お婆さんの歩き方を見せてくれたり。

 でも稽古中にそっちを見ていると、こうなっちゃう。

「モーーー、どこ見てんのよ!?」

「いや、その……考えてんのよ。で、遠くを見てるような顔になんの!」

 乃木坂さんは、メモも残してくれる。

 ありがたいんだけど、古いのよね……「体」は「體」だし「すること」は「す可」だし、まるで古文。むろん理沙や夏鈴に見せるわけにはいかないし。

 はるかちゃんにも聞いてみた。説明はしてくれるんだけど、やっぱ、チャットじゃ限界。

 いっそ、乃木坂さんが理沙や夏鈴にも見えたらなって思ってしまう。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母

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