まりあ戦記・050
今日からは中原君といっしょに学校に行ってもらう。
それだけ言うと金剛特務少佐は回れ右してエレベーターの方に歩き出した。
「え、ええ?」
それだけ言うのが精いっぱい。ズカズカ進む後姿は『だまって俺に付いてこい』オーラが燦然と輝いていて、グイグイ引っ張って行かれる感じになる。
ガチャリと音がしたかと思うと、中原少尉がドアを施錠。いつのまに入ったのか、手にはわたしの通学カバンとローファー。わたしは、ちょっと顔を出すぐらいのつもりだったからサンダルを履いているんだ。
エレベーターの中では無言だったけど、エントランスから駐車場に行く間に少佐はガンガン説明……というよりは命じてくる。
「今日からは中原少尉ともいっしょに通ってもらう」
「え、どこに?」
「学校に決まってる。少尉、カバンを渡せ」
「はい!」
「あ、ども…中原さん、その姿!?」
通学カバンを渡してくれた中原少尉は、いつの間にかトレンチコートを脱いでいて、あろうことか、わたしと同じ第二首都高の制服になっている。
「今日から同じクラスです、よろしくお願いします!」
「は、はあ……」
「高安大尉からくれぐれもと警護を頼まれている。いくらなんでも、わたしが高校生になるのは無理があるからなア」
「は、はあ……」
「同じ学校に通えば、おのずと気心も知れて万全の警護ができる。少尉、靴も履き替えさせろ」
「は!」
ローファーを差し出され、その場で履き替える。
「人は足元を見る、まりあは少尉の足元を見過ぎたしな」
ウウ……たしかに、中原少尉には迷惑かけた。
「今日は俺が学校まで送っていく、明日からはおまえたちだけで行くんだ」
おまえたち……なんか違和感。
「さ、あれに乗れ」
少佐は、駐車場の隅に停めたRV車を顎でしゃくった。
ドアを開けて驚いた( ゚Д゚)!
「おはよう、おねえちゃん(^▽^)!」
ビックリした! 後部座席にナユタが同じ首都高の制服を着てニコニコ笑っているしい!
「なんで、あんたが……」
車に右足入れたまま固まってしまった。
「おまえたちって言ったろう、今日から、三人姉妹だ。はやく乗れ」
「三人姉妹?」
「さすがはまりあおねえちゃん!」
「な、なにが?」
「清純派の白パンだ」
「う(#'∀'#)」
反射で左足も車内に突っ込んで、車に乗り込んでしまう。
「うお!」
同時にRV車は急発進、反動でドアが閉まって、あっという間に駐車場を飛び出していく。
「さすがにアグレッシブ!」
「なにがあ!?」
「ふつう、ああ言われると、右足ひいて車から出ちゃうんだけど、まりあおねえちゃんは、とっさに乗り込んだ!」
「あ、ああ、たまたま、たまたまよ(^_^;)」
「グ、グフフフ」
中原少尉が笑いをこらえている。今まで、あれこれやられたことをナユタが仕返ししているようでうれしいんだろうなあ……クソ!
学校に着いて、さらに驚いた。
「なんで、着いてくるの!?」
中原少尉とナユタがいっしょに階段を上がって来るのだ。
「同じクラスですから」
少尉は緊張した笑顔で、ナユタは、その横でピースサインをしている。
で、さらに驚いたのは階段を上がって角を曲がったところ。
「な、なんで……(;'∀')」
教室の前に担任と並んで少佐が立っているのよ!?
「保護者として挨拶するんだ」
「え、ええ!?」
保護者?
「じゃ、中に入ってください」
担任がドアを開けると、クラスメートみんなの視線が集まる。
「今日から、安倍まりあが復帰します。それと、転入生が二人、このクラスに入ります。じゃ、お父さんから、お話を」
「特務旅団の金剛少佐だ、今日から娘三人が世話になる。向かって左から長女の阿部まりあは知ってるな、病気が治って復帰だからよろしく。その横が次女の中原光子、そのまた横が三女の冷泉なゆただ。三人とも苗字が違うのは養女だからだ。養父は、このわたし、金剛武。事情は察してくれ、じゃ、よろしくな」
そこまで言うと、少佐はビシッと敬礼を決めて、さっさと教室を出て行った。
教室のみんなは呆気にとられ、そのあと、三人それぞれ挨拶したんだけど、もう、なにがなんやら憶えていない。
その中で、親友の釈迦堂さんだけが、興味津々と目を輝かせていたよ……。