泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)
なんで神楽坂高校なんか受けたんだろう。
入学二日目にして頭の中は「?」と「!」でいっぱいだ。
入試の日は、みんな、あたしよりも賢そうで大人びて見えたのに、入学二日目の今日はバカで子供っぽく見えてしまう。
高校生にもなってブカブカの制服なんてありえないけど、ま、中には発育途上の人もいるだろうから、それはそれ。
でもさ、みんな下手なコスプレに見えてしまうってのは、なんともねえ、みっともねえ……韻を踏んでしまった。
二日目の今日は、まだ授業は無くて、いろいろ書類とか書くのと体育館でオリエンテーション。
クラスの子は男子も女子も漂白したみたいに青白いかハイジみたいにホッペの赤い顔。緊張してんだろうけどバッカみたい。
二三人ずつ二組ほどペチャクチャ喋ってるのがウザったい。
どうやら同じ中学から来た者同士たまたま同じクラスになったんだろーけど、新学期早々って空気読んで、らしくしてろよ。
あたしの前の増田さん、配りもの回すときには「はい」とか「どうぞ」とかくらい言ってよね。
あたしは「ども」とか「うん」とか返してるよ。
配り物で机の上が一杯になって、増田さんが消しゴム落っことした。「はい」って言って拾ってあげた。こんなさりげないことが互いの距離を詰めてくれるから、ちゃんと目を見て微笑んで返してあげたのよ。だのに、増田さんは目も合わさずに「あ」よ「あ」。
担任の田中先生。
うだつの上がらない顔は仕方ないわよ。
でもね、一本調子のベシャリはなんとかなんないの!? 二分も聞いてると眠気を催すのよ!
ま、配ったプリントのまんまの説明だから読んでりゃ分かるんだけどね。
いい加減にしてほしいのがプリントの枚数。
配り物は男子の列から。先生は、人数を読んで列ごとに置いて「後ろに回して」と言うんだけど、あたしの列が最後のせいか、残ったプリントをまんま置いてしまうのよね。
で、毎回余ってしまう配り物を教卓のとこまで持っていかなければならない。
何回か持って行ったとき、次は生徒手帳だって分かった。
生徒手帳というのは身分証を兼ねていて写真を貼らなきゃいけない。で、その写真は、まだ先生の書類箱に入ったまんま。
「先生、写真を先に配ったほうがいいですよ。他にも健康調査票とか生活指導のとか、写真貼るのはまとめた方がいいです」
「え、あ、あ、そうだね(;'∀')」
生徒から言われると怒り出す先生も居るんだけど、田中先生は聞いてくれる……のはいいんだけど、そんなアワアワしないでほしい。
休憩時間に廊下に出てみると、クラスの枠を超えてあちこちで話の輪が出来ている。
みんな出身中学や友だち同士で喋っている。
場慣れしない感じが初々しいとも言えるけど、なんともイモに見えてしょうがない。
――え、アキバに寄れるんだ!―― ――そっちは新宿?―― なんてのが聞こえてくる。
電車通学の子たちだ。
あたしが神楽坂に決めたのはいろんな事情があるんだけど、電車通学のことは頭に無かった。
交通費気にせず定期であちこち行けるのは魅力だ。また家に帰って、ソファーにひっくり返ってため息をつきそうだ。
オリエンテーションでもプリントばっか。
いちおうザッとは見るけど、読み切れないし、全部理解なんかできっこないって!
それに、今度は枚数が足りなくなったりしてるしーヽ(`Д´)ノプンプン
さすがに先生のとこまで取りにはいかないけど、肩のところまで手を上げて――足りませーん!――と、アピール。
すると、田中先生は手持ちがないのか狼狽えて周囲をキョロキョロ。
そんな先生に気づいて、誰かが持ってきてくれる気配がする。
「はい、おまちどう」
ありがとう……声に出かけてビックリ。
「なんで、あんたが!?」
「小菊!?」
何の因果か腐れ童貞のお人よしが雑用に使われていた。
すぐに口はつぐんだけど、これで噂が立ってしまった。
あたしは、しっかりものの留年生で、二年生の彼氏がいるんだとさ!
☆彡 主な登場人物
- 妻鹿雄一 (オメガ) 高校三年
- 百地美子 (シグマ) 高校二年
- 妻鹿小菊 高校一年 オメガの妹
- 妻鹿由紀夫 父
- 鈴木典亮 (ノリスケ) 高校三年 雄一の数少ない友だち
- 風信子 高校三年 幼なじみの神社の娘
- 柊木小松(ひいらぎこまつ) 大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
- ミリー・ニノミヤ シグマの祖母
- ヨッチャン(田島芳子) 雄一の担任
- 木田さん 二年の時のクラスメート(副委員長)
- 増田さん 小菊のクラスメート